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本「若草物語」への旅〜井上一馬 

映画「ストーリ・オブ・マイライフ わたしの若草物語」は、上映中です。が、コロナ感染拡大の影響もあり、映画館はガラガラのようです。見るのに、今がチャンスかもしれません。

映画館といえば先日京都に行った時に、出町桝形商店街(これも変わった名前ですね)の入口近くに、「出町座」という映画館がありました。お腹が空いたので、河原町通り沿いにある「ふたば」(普段よりは少ないのでしょうが列に並び)で葛饅頭を買い、鴨川河原ででも食べようかと思っていたのですが、商店街が面白そうで、ちらりと入ってみたら、面白い!出町座に入ると、カフェ「出町座のソコ」が真ん中に陣取り、その周り半周を書店「CAVABooks」、反対側半周が映画ゾーン、となっていました。食券を購入して、カフェでランチを注文し、店内観察。読みたいな〜〜〜と思う本がどど〜〜んと並んでいました。小さな映画館に次々と人が訪れます。どうも、もはや席は予約で一杯のようです。残念そうに店を出る人、本を買って帰る人、、、。ランチを食べているうちに前の映画が終わったようで、店の反対側にある出口からお客さんが出て行きました。その頃にはずらりと予約していた人たちが商店街側に並んでいた。できて3年目の映画館だそうです。

「知る人ぞ知る」〜〜〜出町座のように(少し強引かな…)、「若草物語」ルイザ・メイ・オルコットの周囲にも「知る人ぞ知る」哲学者エマーソンや、その超越主義的な思想を実践に移したソローという人がいて、彼女に大きな影響を与えました。(エマーソンの思想は後に日本でも、武者小路実篤などに影響を与え「新しき村」運動へとつながって行きます。)

「『若草物語』への旅」井上一馬著(晶文社)、では、著者が家族と一緒にボストン郊外のコンコードを訪れます。ヴォルデン湖畔での独居生活を「森の生活」という本に記したソローの開いた学校に、ルイザは7歳の時から通い、ソローの導きで自然に親しみ、ソローを尊敬し続けたのでした。一方でルイザの父ブロンソン・オルコットは、理想的な教育を求めて妥協することなかったため、その理解者であったエマーソンからでさえ「崇高な夢想家」と記され、当然の結果として彼の学校経営は失敗に終わります。彼は理想を求めるあまり経済的には全く無能であり、オルコット一家の生活は全てルイザの母アバの肩にかかっていたのです。

井上さんはそのようなルイザの背景を紐解きつつ、一方でアメリカという国で、右派「キリスト教同盟」の勢力が拡大していく背景についても言及します。なぜ、人格破綻者としか思えない人が、大統領に選出されたのか、この文章を読んで少し理解できたように思います。自由の国寛容の国アメリカも確かに存在するけれど、一方で宗教的な厳格さと先鋭化の伝統がアメリカ人の精神の中に脈々と流れている結果、禁酒法や魔女裁判、赤狩り、のような出来事が生じるのだということです。

ルイザは現実的な母の愛に包まれて力を得て、彼女の人生に起きた出来事を元に「若草物語」を書き上げ、成功します。そして「続若草物語」で、彼女の人生には起きることのなかった出来事を挿入します。それはジョーの結婚です。ジョーの結婚相手のベア先生、はルイザの父ブロンソンと、恩師ソローの二人が投影されていると、井上さんは分析します。そしてそれが故にこの物語は永遠の輝きを持ったとも。

ジョーを結婚させることがルイザの望みだったのかどうか、それはわかりません。映画「ザ・ストーリー・オブマイライフ わたしの若草物語」の解釈とは違いますが、井上さんの分析も一つの考え方だと思います。

ルイザは社会的な成功とは裏腹に、家族の死が続き、残された家族の生活が全て彼女の肩にかかるという現実が彼女に重くのしかかりました。そして父ブロンソンの89歳での大往生を見届けたわずか2日後、55歳でその生涯を閉じました。

「若草物語」を生んだ歴史的な背景と、ルイザの人生について、一つの見方を提供してくれた本でした。そして、今、アメリカだけでなく、日本でも生じている、「厳格さと先鋭化」のもつ闇についてはよく考えて行動を取らなければならないと改めて考えさせられました。理想主義的な父の感化と、現実を見据えながら大事なものを見失わなかった母の影響の元で、また大いなる自然に包まれた暮らしを通して、ルイザは「厳格であり先鋭的」でありながら「人を排除することなく強さも弱さも受容する」態度を貫き、普遍的な物語を紡ぐことができたのだと感じました。

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2020.8.(葉月).1

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