自分と向き合う技術

本「道行きや」伊藤比呂美(「飛ぶ教室」で悩み相談担当)

私は今、伊藤比呂美さんの「道行きや」を読んでいます。https://www.shinchosha.co.jp/book/432403/

面白くて電車を2回乗り過ごしてしまいました。2018年伊藤比呂美さんは長い長いアメリカ暮らしから帰って来ました。その後のエッセイをまとめた本です。表紙に「(ちくしょう)あたしはまだ生きてるんだ」とあります。『いやいや比呂美さん、あなたは絶対生き残るタイプでしょう』と思いながら本を開いたらこれが面白い・・・で、行きも帰りも電車を乗り過ごす羽目に陥りました。

粗忽長屋・・・「とにかく物をなくす。落とす。そして忘れる。」『そうなのよ一緒!』と思いながら読み進めます。(比呂美さんは人生の先輩。人生の折々に読んだ彼女の「言葉」は好き嫌いを超えてわたしに刺さったし救いもした。例えば「よいおっぱいわるいおっぱい」「コドモより親が大事」など。ファンではなかったけれど、なぜか折々の「言葉」はわたしに残っていました。)2018年比呂美さんは大学の先生になってかなり苦労しています。集中できない比呂美さんは編集者の勧める薬を飲んで、270人分のレポートを読み採点し、気づいたら間に2度の休憩を挟んではいるものの合計約17時間ほど・・・その時、「鏡の中に、母の首、母の脇腹、母の脚がうつっていた。ぎくりとして目を凝らしたら、母のまぶたや母の乳房もそこにあった。母は明け方の月みたいに薄っぺらくなっていて〜」そして彼女は思います。「こうやって老いていくのだ」もう一つ「あれがわたしなら、ここにいるわたしはいったいどこのだれだろう」と。(ああ比呂美さんだ、と思いました。そして自身の姿を見る思いもしました。比呂美さんみたいな大車輪ではありませんが、なんだかんだと色々して、鏡の中に老いた母を見る時、、あるのですね。)

むねのたが・・・比呂美さんはコミュニケーションの取りにくいと感じる大学のシステムや学生に嫌だ嫌だと思いながら秋学期を迎えます。そしてリアぺ=リアクションペーパー・学生が授業への感想を記入する紙、を利用して得意の「悩み相談」を始めます。そして学生とのやりとりの中で「おお考えている、考えている、考えている、わたしはそれを読みながら、かれらの経験や、感情や、個性や、挫折や、そういうものをびんびん感じる」と思うのです。(授業って一方通行では面白くないですよね。今日テレビで見た上野千鶴子さんの「最終講義」でも10人の生徒さんたちとの「対話」の時間がありました。双方向のやり取りがあってこそその時間は生きるのだと思います。)

ひつじ・はるかな・かたち・・・比呂美さんは早稲田大学で教えるに当たってアメリカの市民権を取らなければならないと思いました。トランプ大統領だから永住ビザのまま国を離れたら帰ってこれなくなるかもしれないからです。アメリカは(日本と違って)移民を受け入れてくれる国なのですが、事情が変わってきているのです。十ヶ月離れたアメリカに帰国した時、友人のヨーコさんとひしと抱き合い、涙する彼女は、アメリカ市民ではなく、永住権を持つ日本人。/かがやく・・・「わたしはとうとう入国審査のひけつを知った」アメリカ市民権を得ることより、永住権を持つ日本人でいた方がいいという理由がこの章でわかりました。死ぬときはアメリカか?日本か?アメリカで暮らす日本人たちの思い。/くずのは・・・異国で子育てをし、しかし相方とのすれ違いに別れて日本に帰りたいと思った女の前に立ちはだかるハーグ条約〜監護権を持つ親の同意なしに子どもを外国へ連れ去ることを防止する条約〜これはこどものための条約なのに。比呂美さんはこう言うしかなくなってしまうのです。「女たち、異国の男と恋愛をするな。恋愛をして外国に出て行くな。」(しかし恋はいつどこで始まるかわからないし、行くしかない時もあるのです。比呂美さんがそれを一番よくわかっている。)

などなど・・・読んでいると、比呂美さんの心の揺れに自分の心の揺れが共鳴してゆらゆら揺れます。それが彼女の語り、文章の持つ力です。比呂美さんは、NHKラジオ高橋源一郎の「飛ぶ教室」の常連さんでもありまして、先週の金曜4月23日にも登場しました。

その「飛ぶ教室」導入、源一郎さんから、11PMという番組https://ja.wikipedia.org/wiki/11PMでの、金子光晴(詩人)と輪島功一(ボクサー)の対談についての話がありました。懐かしい、こっそり時々みていた11PM、そんな対談があったんだ、みたかったなあ。金子光晴さん、大好きです!

「飛ぶ教室」1時間目、秘密の本棚コーナーでは、2011年2月に、連載が決まり、奇しくも福島が舞台の、「その女ジルバ」有間しのぶ著、が取り上げられました。https://bigcomicbros.net/work/6441/

池上千鶴さんが主役で、テレビ番組にもなったそうです。https://www.fujitv.co.jp/b_hp/jitterbug/index.html

主人公は40歳うすいあらた、35歳で倉庫に回され、バーのホステス募集40歳以上に応募、ホステスとなります。その店には亡くなったママ、ジルバさんの写真が飾ってあります。源氏名を、あららとし、福島で弟が被災したあららさん、最年少のホステスとして働き、そこで多くの話を聴き、単行本5巻の中で、いろいろなことに気づいていきます。

ジルバさんはブラジル移民の子どもでした。あららさんはブラジル移民についての🇧🇷本を読みます。なぜブラジルに行ったのか。それは貧しかったからです。政府政策だったからです。ブラジル移民の人たちは、第二次世界大戦開始後日本から棄てられます。戦後情報が錯乱し、日本が負けたという組と勝ったという組が争います。殺し合いさえあった。戦後、ジルバさんは、お金を失い夫も子どもも失い、日本に戻り、歯を食いしばって働き、戦争で傷ついた人々を守るためにこの店を開いたのです。あららさんは、店の人たちから、いろいろな話を聞きます。彼女には聴く力があったのです。なにもなくて、傷ついているからこそ。(この漫画知りませんでした。読みたいです。教員だった頃、ブラジル移民でブラジルの国民的画家となった大竹富江さんや、写真家大原治雄さんを題材に「移民」というテーマの授業を行ったことがありましたがその時になぜこの漫画に出会えなかったのかと、己の不明を恥じる思いです。世の中知らないことだらけですね。)

飛ぶ教室で紹介された本、頑張ってできるだけ読もうとしています、がなかなか読めません。今は「非色」有吉佐和子著を読み始めています。アメリカの人種問題を描いた傑作です。https://www.kadokawa.co.jp/product/199999126202/

2時間目は伊藤比呂美さんが登場。悩み相談コーナーは「比呂美庵」と命名。伊藤さんは、1時間目で紹介された「その女ジルバ」について、小説でも詩でもない漫画で描かれたことがすごい、そして物語が展開される「オールドジャックアンドローズ」というこの店で働きたい、きっと次のママ比呂美ママになれる、と言います、そうだろうな。

第二次世界大戦の出来事について書いていないことについて、小説家は体験した人でなければ書けない、詩人は戦争に加担してしまった、と源一郎さんと比呂美さんから短いコメントがありました。(それって簡単にまとめすぎかな・・・先に名前の上がった金子光晴さんは加担しなかった、それで賞賛された・・・と思っているうちに)話はどんどん進みます。ちょっと前に、野犬の子犬を保健所からもらってきて「チトー」、シートン動物記が好きで「賢いコヨーテ」=賢くて強い女のコヨーテが生きるためのロールモデルだったそのコヨーテの名前、と名付けたそうです。比呂美さん、新年度は法政大学の大学院で教えているそうです。「10人だけだからね。ムッチャ面白い。」(よかったよかった、比呂美さんにとっても大学院の学生さんにとっても。)

悩み相談室=比呂美庵に移動。比呂美さんが先生なのですが源一郎さん喋る喋る、いつもそうなんですが、そんな源一郎さんを意に介さず、比呂美さんも好きに喋り、二人は共鳴します。家の色の悩み〜家族の中で生き残った人が決める。夫との離婚の悩み〜今こそ悩む時、悩んでください、万が一別れることになったら絶対養育費もらってください。子どもが生まれて文学にも何にも興味が持てなくなった〜それでいいよ!また変わるから、今はそれでいい。

その通りだな、と思いながら聞きました。来週は漫画家山崎マリさんが登場とのこと。

2021年4月25日(日)

緊急事態宣言が出された日。1年経って変異ウイルスに右往左往しているわたしたち、料理人神田川さんが新型コロナ感染のために亡くなられたというニュース、前の家の近くの居酒屋でお客さんとしていらしていた時と、新地のお店に一度寄せていただいた時に、偶然お会いしたなあ、ご冥福をお祈りします。

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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