詩の世界

万葉の花〜梅〜趣味の園芸(Eテレ)〜万葉の秀歌(中西進)

2月20日(日)Eテレ朝8時35分からの「趣味の園芸」は「万葉の花9〜梅〜わが宿で植えた憧れの花」でした。https://www.nhk.jp/p/syumi-engei/ts/WJ9WG8YL24/

東京日野市にある京王百草園の梅花園での長岡さんと三上さんとの映像は明るく、軽やかで、魅力的でした。

大陸からもたらされ、初めは食用、薬用として、実を用いることが主だったという梅。その可憐な花(当時はおそらく一重の白い、小さな花だったと考えられているそうです)が、一年で一番寒い時期に咲くことで「春告草」とも呼ばれました。古代の人々は超常的な力を持つと考え、身に付けることでその活力にあやかろうとし、また、庭に植えることでその白い花の美しさを楽しむようになりました。

文字として一番古く梅の花が登場するのが、日本最古の歌集「万葉集」です。

720(天平2)年正月13日、大陸との玄関口、太宰府の長官・大伴旅人(おおとものたびと)=(家持のお父さんです)邸で梅花(ばいか)の宴(うたげ)が催されました。元号が「令和」と決まった時にあまりにも有名になった旅人の序は、「時に、初春の令月ににして、気淑(よ)く風和らぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉を披(ひら)き、蘭ははい後の香を薫らす。=時あたかも新春のよき月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の5時薫りを漂わせている。」から始まり、参加者に「よろしく庭の梅をよんでいささかの歌を作ろうではないか」と呼びかけます。序に応える形で、32首の歌が続きます。

番組では、主(あるじ)大伴旅人の歌

わが園に 梅の花散る ひさかたの 天(あめ)より雪の 流れ来(く)るかも     (万葉集巻五 822)

わが庭に梅の花が散る。まるで、天涯(はるかな空)の果てから雪が流れ来るよ。

が取り上げられていました。多くの人が「咲く梅」の美しさを歌った中で、「散る梅」の美しさを歌って、のちにも踏襲される風景となりました。また、番組に登場した万葉文化館の坂口さんは、天から流れて来る雪のような梅の花に、太宰府で亡くなった旅人の妻の大伴郎女(いらつめ)の面影を見たのだろう、と解説していました。

そして月ヶ瀬の風景が映し出されます。美しい!メジロが梅の蜜を吸いに来ています。そして様々な梅の種類を紹介していました。300〜400種類もあるそうです。その中で冬至の頃に咲く(早い!)という白野梅の一種が目を引きました。欲しいな〜〜と思っていますが、我が家の近くの道端、そして公園、家々の庭に沢山の梅が咲いていますのでそれを楽しむ方がいいようです。

旅人の上記の歌について「万葉の秀歌 中西進 ちくま学芸文庫」を紐解くと、雪が「流れ来る」という表現が中国の表現を取り入れてたいへん斬新であり、しかも花を雪と見立て、その雪が流れるというのだから二重の比喩をしている、そこには、表現の問題を超えて感受性の変更すらあっただろう、と書かれており、さらに、「旅人の眼前の落花の景は、やがて幻視のなかで、流雪に変わってゆく。まるでヴェルレェヌの象徴詩でもあるかのように、交感するふたつのものがこもごもに変化する内面的な世界である。眼前に流れるものは雪でもあり、落花でもあった。見事な複合的表現である。」と終わります。

美しい歌への美しい解釈です。

万葉集では梅の姿の美しさが歌われますが、古今集以後は「香り」を詠むことになるそうです。古今集以後にも素晴らしい梅の歌が沢山あります。

2021年2月21日(旧暦1月10日)「梅の花いま盛りなり百鳥(ももどり)の声の恋しき春来たるらし(万葉集巻五834)田氏肥人(でんしのうまひと)」の歌も梅花の宴で読まれた歌です。今日は実際に鳥たちの囀りが心地よく響き、春到来を思わせる暖かな日曜日でしたね。

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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