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本 三度目の恋〜川上弘美

国文館研究資料室の出しているYouTube番組「一冊対談集川上弘美×キャンベル 君が今語った今の話は、君の物語なんだろう1〜4」を観ました。

https://www.youtube.com/watch?v=obR4bp9KjT8&t=1s

とても面白い対談でした。そして「三度目の恋」を読みました。

https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/09/005334.html

現代を生きる主人公の女性が、夢の中で1000年の時空を超え、平安時代、江戸時代の女性として生き変化していく、という、とんでもない話です。

主人公の女の子は、賑やかな教室が嫌いで静かな図書室や理科室、花壇と用務員室が好きな女の子です。用務員の高丘さんはそんな梨子ちゃんの理解者で、不思議な力を持った変わった人でした。

梨子ちゃんは初恋の人なーちゃんと結ばれ幸せな家庭を築きます。がその幸せは長くは続きませんでした。そんな時に高丘さんと再会した梨子。なーちゃんとの間の苦しみを彼に告げた梨子に「そんなにも彼が好きなの?」と高丘さんは静かに聞きます。「好き」「それなら、きみも魔法をおぼえることができるよ、きっと」という高丘さんの返事に、梨子は高丘さんも誰かを狂おしいほどに恋した果てに、いやいやながら魔法をおぼえたのかもしれない、と感じました。

そして彼女は夢をみるようになります。夢の中で、江戸時代の貧しい女の子が花魁になり死んで行くまで、また平安時代の女房となりお姫様となり業平という稀代の男性の側で様々な体験をします。

梨子さんの語りで、私たちは今の自分たちの恋愛のあり方、とむかしの人々のそれの違いを知ります。梨子さんを巡るなーちゃんや高丘さんの姿から、今と昔の違いや変わらなさを知ります。男女の関係の不思議さ、自由さ、窮屈さを感じます。

梨子さんは働きたいと思い、お母さんから大反対されます。そんなお母さんに、梨子さんのお琴の先生道子さんは「梨子さんたちは、依って立つ場所が、ものすごくすかすかしているのです」「そのすかすかの地面の下に、いろんなものが見えてしまうのよね」と言いお母さんは渋々梨子さんの気持ちを受け入れます。

そんな梨子さんとなーちゃん、高丘さんの関係はまた変わっていきます。「愛しい=かなしい」という言葉に様々な思いを込めて彼女は三度目の恋へと向かいます。

「恋=孤悲」と書いて恋の苦しみを味わったつもりになっていた高校時代に、古典の授業で「愛しい」が、悲しい=哀しいという言葉と同じ読み方をすることを知り、「かなしい」の意味が「素晴らしい・好きだ・可愛いと思う・心に染みるほど素晴らしい」という意味と「しゃくに触る・悔しい・恐ろしい・辛い・貧しい」と両方の意味を持つと知った時の驚きを思い出しました。

伊勢物語をベースに、一人の平凡(にみえる)女性の中に壮大な物語が繰り広げられるこの物語は、一方で「伊勢物語」の主人公である在原業平という男性を理解するための物語でもあります。おススメです!とはいえ、川上弘美さんは後書きで「業平については今だにわからない」と書いておられます。そうですよね、人の心や真実は、わからないことが殆どですよね。

2021・水無月4日(金)百合の美しい季節となりました。友達から美しい写真が送られてきました。アイキャッチ画像に使わせてもらいました。

追記)伊勢物語について書いた記事もお読みいただければ幸いです。

伊勢物語(100分de名著)〜男の友情と生き方(友への心の寄せ方)〜京都100分de名著では高樹のぶ子・野村萬斎さんが登場し伊勢物語を面白く紹介してくださっています。第三回は男の友情がテーマでした。伊勢物語に語られる惟喬親王と業平の友情からはしみじみとした悲哀と美が感じられます。友人が惟喬神社を訪れたところ、鴨川の源流のあるとんでもない山の中だったそうです。京都国立博物館では皇室の至宝展が開かれており、充実した展となっています。...

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねて今に至ります。心理し(士・師〜〜この二つの「し」の違いは何だろう?)です(臨床心理士・公認心理師)。喜びも多かった教員経験の中、一方で、えも言えぬ息苦しさも感じ、心理しの資格をとって、今は相談活動を行なっています。
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