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トム・クルーズ 永遠の若さを追及して(ドキュランドへようこそ)

今晩のドキュランドへようこそは「トム・クルーズ 永遠の若さを追及して」です。

番組は、10代のトム・クルーズの映像からスタートします。一見どこにでもいそうなこの若者は学校生活に馴染めず、レスリングに夢中でしたが、ケガで断念、俳優になります。幸運に恵まれ、1981年「エンドレスラブ」「タップス」1983年「アウトサイダー」で才能を発揮し、同年「卒業白書」で、ワイシャツにブリーフ姿で踊る自由奔放な姿で人々を虜にしました。

12歳で両親が離婚、母と三人の姉妹とともに貧困の中各地を放浪する生活が続き、14もの転校を繰り返しました。高校は、カトリックの神学校に入り、そこでの寄宿舎生活は「やっと訪れた平安だった」とトムは語ります。「僕を助けて」とお祈りをしていた彼に、奇跡が訪れ、彼は映画で成功を手に入れた、と番組は語ります。

1983年ニューヨークからソウルに向かっていた大韓航空機が領空侵犯を理由にソビエト軍により撃墜されました。共産主義への反感が強くなる中で、撮影された映画「トップガン」により、トム・クルーズは、海軍の広告塔&アメリカのシンボルとなります。そして弱冠25歳にして、映画作品の制作をコントロールする発言力を持ち、俳優としても全力を注ぎ、さらなる成功を手に入れていくのです。

しかし、「僕は、もう一度同じ役はやらない、ただのアクションヒーローでは終わらない」と「トップガン2」のオファーを断ったトム・クルーズは、「ハスラー2(1986年)」でポール・ニューマン、「レインマン(1988年)」でダスティン・ホフマンと共演し、彼らから演技について学び、実力をつけていきます。そして1989年ベトナム戦争を描いたオリバー・ストーン監督の「7月4日に生まれて」で彼はアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが受賞は逃しました。ちょうどこの頃、トムは、カトリックを捨て、新興宗教「サイエントロジー」を信仰するようになりました。彼はその信仰によって「自分は失語症でないと気づき、学習速度や理解力が驚くほど向上した」と発言しています。

1988年「カクテル」・1990年「デイズ オブ サンダー」など彼の活躍は続きます。この映画「デイズ オブ サンダー」では、ニコール・キッドマンと出会い、ロマンスが芽生え結婚しました。1993年「インタビュー ウイズ バンパイア」では、ブラッド・ピットと共演、素晴らしい演技を披露します。「俳優とバンパイアは同じような存在〜永遠の若さを運命付けられた存在だ。」と監督のニール・ジョーダンはトムクルーズを語ります。

永遠に若々しいトムクルーズは次々とヒット作品に登場し、存在感を増し、メディアで「サイエントロジー」について語ること=自分について語ること、をやめます。1996年、スタンリー・キューブリック監督のオファーを受け、トム・クルーズとニコール・キッドマン夫妻は、完璧を求める監督のもと長時間を「アイズ・ワイド・ショット」に捧げ、一方で、精神的に厳しい状況に追い込まれていきます。妻が別の男に身を任せる辛さに苦しむ役の苦悩は彼自身の苦悩へと変化していきました。トムの演技のスタイルが変化します。

「自分の人格も取り入れながら役を作っていくと、言葉では言い表せないことが起き、自分について気づくのだ」と彼は語ります。映画「マグノリア(1999年)」では彼自身の彼を棄てた父へ語るかのように演じ、アカデミー賞主演男優賞に3度目のノミネートをされ、受賞は逃しますが、「ミッション:インポッシブル2(2000年)」でハリウッドを席巻しました。

2001年9月11日の同時多発テロ後の、アカデミ賞の授賞式で彼はハリウッッドを代表しメッセージ「映画がもたらす喜びや魔法が今こそ必要だ」を述べます。スティーブン・スピルバーグとトムクルーズが組んだ「宇宙戦争(2005年)」の頃には1億円の出演料を得るようになりましたが、恋人に夢中の彼(2001年に離婚)を揶揄する声が起き、人気は凋落していきます。サイエントロジーについて「人生に活用できるツールだ」と再び語るようになり、彼は不穏な人物だとアメリカ人に感じられるようになりました。スピルバーグは彼とは2度と仕事をしないと宣言し、失語症とサイエントロジーとの関係について批判され、私生活についても批判されましたが、トムクルーズはそれでも自説を語り人の意見を耳に入れようとしませんでした。

2010年代はじめ、彼は、「ミッション:インポッシブル」の続編シリーズを、制作、主演し、50歳を超えても走り続け、彼はスタントマンを使わず、自らの肉体を危険にさらしてスタントに挑戦し続け、新しい世代のファンを獲得しています。そして、2020年トム・クルーズは、宇宙ステーションでの映画撮影を行い、一方で、サイエントロジーによって妻と娘に去られます。一人っきりになり内面が崩壊した男の孤独を「ミッション:インポッシブル フォールアウト」で描きます。「トップガン マーヴェリック(2020年)」での彼の若々しい姿は私たちを安心させ、時の流れより強いトム・クルーズを感じることができる、と番組は締めくくられました。

フランスのドキュメンタリー番組。駆け足だったせいでしょうか、日本語の訳のせいでしょうか、私に知らないことが多すぎたせいでしょうか、少しわかりづらかったですが、「トム・クルーズ」という俳優を立体的に描こうとした野心的な内容だったと思います。

トム・クルーズについては、これまで、「“識字障害”で、多大な努力を払って脚本を耳から覚えている」ということに強く感銘を受けていたのですが、その光と陰の部分を描いたこの番組を見て、改めて、人の心の奥行きについて考えさせられた番組でした。

2020・12・4(金)

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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