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本 つまらない住宅地のすべての家〜津村記久子

キクラーです・・・津村記久子ファンです。これまで出版された本はほぼ全て読んでいます。握手もしてもらった。サインももらった。😁!どの本からも元気がもらえます。新しいところでは短編集「サキの忘れ物」もよかったです。朝日新聞連載中のエッセー「となりの乗客」にも毎回ほっとさせられたり深くうなづいたりしています。https://book.asahi.com/writer/11001951

3月に出版された「つまらない住宅地のすべての家」を読みました。

小さな町のとある路地に面した10軒の家。それぞれの家にはそれぞれの事情があり闇があり、それぞれの家に住む一人一人には気持ちの動きがあります。津村さんは独特のうねるような文体でそれぞれのうねるような思いを描き出していきます。

妻が出て行った父と母が出て行った息子。母を看取り仕事を続ける58歳の女。育児放棄の連鎖。大事に育ててもうまくかない子を閉じ込めようと画策中の夫婦。学生に振り回されている大学教員の夫婦(別姓です)。祖母に支配されている三世代同居の大きな家。世の中への復讐を考えている青年。大きな隣家に批判的な目を向ける母と息子。スーパーの警備をしている36歳一人暮らし男。彼と時々トランプをしたりして穏やかに暮らす老夫婦。この10軒の家の中の風景がある事件をきっかけに変化していくのです。

本の帯には次のようにあります。その日、丸川亮太がいつものように中学の制服に着替えて朝食をとっていると、テレビから「二つ隣の県の刑務所から女性が脱走した」という、少し前から話題になっているニュースが流れた。その逃亡犯は亮太の家の方に向かっているらしいとのことで、亮太の父親が住宅地を見張ろうと言い出した。そんな丸川家の向かいにある矢島家。小学生の姉妹と祖母・母親の四人で暮らしているが、母親は留守がちで、姉のみづきが妹の面倒を見ていたのだった。そしてその隣の真下家では・・・。』

逃亡犯が近づいていることをきっかけに、世の中の問題を凝縮したような路地の風景も変わっていきます。積極的にあるいは嫌々ながら路地の見張りをし始めた人々の交流を通じて、少しずつ少しずつ彼らの気持ちや思いが変化していきます。料理の匂いや、味、温かさ、手触り、ほんのちょっとした些細な出来事、を通して変化していく人々のこころ。

そこには、亮太の友人や、困った学生や、逃亡犯やらが入り混じって登場します。読んでいるうちに、「あれ?これ誰だっけ?」と元に戻ること(はじめに家の配置図があるのです)何十回。嫌だと思っていたことが実はそうでもなかったり、一人で困っていたことがちょっと助けてもらうことで解決できたり、そんなこんなで物語は、ハッピーエンド?・・な訳はありませんが、それぞれの気持ちがそれぞれにおさまっていく様相を呈して終わります。

津村さんは、小さい時から「劣った子供で、周りの子たちにいつもバカにされていた」(となりの乗客〜私が特別でないのなら)と自分のことを書いておられます。だからこそ彼女は周りをよく観察し知恵を得たのです。「手持ちの少ないところから知恵を絞り、やれることを獲得していく」(となりの乗客〜私が特別でないのなら)ことが人が成長していくということだという確信。そんな彼女は「これまでおびただしい回数落ち込んだせいで、立ち直りのノウハウはおそらく保持している」(となりの乗客〜たぶん何が訪れる)とも自認しています。だからこそ、小説の登場人物に色々な立ち直りのノウハウを授けることができるのだと思います。

ハッピーエンドではなくてもしみじみ読後感のよい小説でした。そしてこの本のデザインが素晴らしい。カバーも秀逸ですが、カバーを外した中の本体、夕暮れ時の家々の様子のデザインがさらに本を包み込むような形で施されています。本を手にとって読む醍醐味を味あわせてくれます。

https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24385-7.html?c=30198&o=&

合わせて上記の「となりの乗客」を読むと(執筆時期が重なっているせいもあり)、重なる表現や「あ、これあの場面に繋がるな」と思える箇所があったりして、さらに楽しいです。

追記)女優の宮崎美子さんがなんとYouTubeでこの本を紹介してはりました。びっくり。https://www.youtube.com/watch?v=5vvtSmEY3b4&t=372s

彼女ライジオ体操第1と第2を続けているそうです。これまたびっくり。

2021・5・13(木)梅雨前線という言葉が天気予報から流れました。もうちょっと待ってくれ!梅雨前線さん!

追記)2022年11月、NHK総合の夜ドラになりました。設定が少し変わっていて、津村さんの文章のうねりの空気感は無くなっていましたが、それぞれの人物の内面が丁寧に描かれていて見応えのあるドラマになっています。途中イノッチがタッキーの後のジャニーズ事務所の社長になるというニュースがあったり、またWOWOWでイノッチ主演のドラマ・シャイロックの子供たちが放映されていたり、とわたし個人的にはイノッチと会うことが多い月となりました😏

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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