信田さよ子さん、すごい方です。このところ彼女の本を立て続けに読んでいますがどれもウ〜ンと唸らされるものばかりでした。今日ご紹介するのは「あなたの悩みにおこたえしましょう 朝日文庫」。近くの図書館にはなくて、寝屋川市図書館からの取り寄せです。寝屋川市図書館さん、この本を購入なさるとは慧眼です!
彼女は、そのカウンセラーとしての基本的姿勢として「困り苦しんでいることを、その人の性格・心理・病理といった個人的な問題に極力帰させないようにすること」を挙げています。「あらゆる論理や思考回路が、個人の責任という穴に吸い込まれて行く、そんな装置がますます社会に蔓延しつつある」という社会の流れに抗するものとしてこの本を執筆したというのです。
「それぞれに個別の問題に徹底的にこだわっていくと、不思議なことに、そこから共通性が立ち上がってくる」〜すなわち様々な悩みの中に「自分の姿」が発見され、「自分だけではない」という思いが起こり、つながることにつながっていく。「つながること」は「多くの困りごとを軽減する」というのです。
それではこの本の中で挙げられている質問を列挙しましょう。
Q 64歳の夫との将来の生活に不安を覚えます 60歳女
Q 妻が不安定で困っています 55歳男
Q 親になるのが怖いのです 38歳女
Q 妻より姉の面倒を見たいのです 58歳男
Q 二人の子どもが結婚しません 68歳女
Q どうして私は腹が立たないのでしょう? 40歳女
Q 娘から毎日のように責められます 51歳女
Q 浮気する妻に対して怒れません 39歳男
Q 長女が可愛く感じられません 41歳女
Q 別居して戻ってきた娘が私を責めます 65歳女
Q 妻子がいなくなってしまいました 40歳男
Q 結婚するのが怖いのです 31歳男
Q 母が重くてたまりません 42歳女
Q 本当の自分はどこに? 31歳男
Q 上手にお酒と付き合っていきたいのです 59歳女
Q 息子が大学を卒業もせず、働きもしません 52歳女
Q 地震以来世界が変わってしまいました 34歳女
Q 3・11以来自分の生き方が問われています 36歳男
Q 母とはいつまで同居すればいいのでしょうか 38歳女
Q 父の飲酒問題が心配です 24歳女
Q 虐待されているんじゃないでしょうか? 56歳女
Q 29歳の長男が自宅に引きこもっているので困っています 60歳
Q 父と顔を合わせることが苦痛です 34歳女
Q ママ友とうまく付き合えません 33歳女
Q ハマってしまう自分をどうすればいいのでしょう? 35歳女
Q 再就職するエネルギーがありません 34歳男
Q 会話のなくなった夫とどうすればいいのでしょう? 55歳女
Q 困っている人の役に立ちたいのです 57歳女
以上28の質問に対し、カウンセリングの現場ではなかなか言えないことも、率直に述べ、これまでの経験のエキスである回答が綴られていきます。その回答は、誰もが苦しむ普遍的な悩みの回答に繋がっていくのです。
「自分はなぜこのような性格となり、なぜこのような問題を抱えているのか、ということに必要なのは過去を腑分けすること」と巻末の解説で酒井順子さんが書いておられます。「自分の過去の沼地を凝視してみると、次第にそこに漂っていた重苦しい湿度が低くなっていくような気持ちがするものです」「過去をよく見ることによって希望は発見できることを知りました」という酒井順子さんの言葉がこの本の良さを端的に表しています。
悩みなんかないわ!という人もぜひ読んで見てください。社会全体が抱える問題も見えてきて、それは誰にとっても無縁のものではないことが実感されます。
悩みのある人はぜひ読んで見てください。読んでいると苦しくなると思います。読めなくなるかもしれないです。そんな時はこの本を閉じて深呼吸しましょう。何日か置いて読みたくなったら読み進めていきましょう。読めなかった方はぜひ相談にむかっていってください。つながって対話する中から見えてくるものがあるはずです。
心理学を勉強したいと思っている人たちには必読書だと思います。
相談業務に携わっている人にも沢山のヒントが詰まっている本ですね。現場でこれを真似しても、きっとうまくいきませんけどね。
2022・7・4(月)