先日この住所にびっくりして「不思議な京都」にあげたところ、友達からこの本を紹介されました。「つうざきむつみ著、てんしつきぬけ367」
マリンバ奏者、アンティーク着物収集家の通崎睦美さんが自宅から30秒のところにある路地の奥の4軒長屋の一軒を、「面白そうだから」買い、「面白い」仲間たちが集まって、「面白い」家(倉庫だそうです!)を作った、その記録の本です。
まず彼女は、画家(だけど画家に収まらない)谷本天志(驚くことなかれ、テンシではなくタカシ)さんに相談の電話を入れ、谷本さんとその知り合いの堀川勝史さんと3人で現地を見て「買う」と決めました。その前にお母様から「みてもろてきよし」と200年続く陰陽五行九星術・家相方位学「松浦長生館」で、八卦見=占ってもらいます。京都らしいエピソード。
室町松原通で大正11年に棟上げされたという近代和風建築が取り壊されることを偶然知った彼女は、「もったいない」と猛然と動き、古材文化の会に登録されていた「上田善」さんから希望のものを譲り受けることになります。
家を解体する前に地鎮祭が必要と前日に気づいた彼女はまたもや猛然と動きます。ここで「天使突抜」という土地の名前の由来が明らかになりました。794年桓武天皇の平安遷都にあたり大和国より天津神を勧請したときに「天使の宮」と呼ばれた神社があり、後鳥羽天皇時代に「五條天神社」と名を改め、豊臣秀吉が京都改造のために「天使の宮」の鎮守の森を「突き抜ける」道を作り、そこを「天使突抜通り」と呼んだそうです。天使突抜通りは現在東中筋通りと呼ばれているのですが、町名として「天使突抜」が残っているそうです。彼女はかつて五條神社の中にあったこの町で家を建て直すのだから五條神社しかない、と、「明日」の地鎮祭をお願いに、神社に向かうのでした。勿論なんとかなったのでした。
このようにして、彼女のパワーに吸い寄せられたかのような、素敵な人たちの創意工夫・こだわり・面白がり精神・好奇心・・・から、天使突抜367は一旦解体され、改築されていきます。「上田善」さんで使われていた様々な素敵なモノが蘇り、また、新しい工夫と古い技法がマッチし、外連味のないサービス精神に満ちた意匠が散りばめられ、アートが生まれ、骨董市で掘り出したものたちが息づく空間が出来上がりました。
「上田善」のご主人は「またここで百年生きますね」とおっしゃいました。ご自身が生まれ育った家のモノが見事に蘇り、生き続けることがとてもとても嬉しかっただろうと思います。最後に「上田善」さんの配った「風呂敷」が通崎さんの家にもあることがわかります。(「上田善」は絞り卸業者で、絞り模様の風呂敷をお年賀などに配っていたのです。)
通崎さんのご実家は風呂敷の縫製を生業になさっておられたそうです。私事ですが私の実家は風呂敷の製造卸を生業にしていました。すでに廃業していますが、昔祖父や父や、多くの人達があれこれ考え苦労して作りだした風呂敷が今でも使われていることを知るととてもとても嬉しいです。
捨ててしまえばそれで終わりの「モノ」に込められた歴史や人の思いを蘇らせるのは、「もったいない」精神と「面白がる」精神と「チャレンジ」精神だ、とこの本を読んで感じました。通崎さんのマリンバ演奏をぜひ聴いてみたいです、そして、彼女のブログや他の本も読んでみたいと思いました。https://www.tsuuzakimutsumi.com/
2020.8葉月.4(火)満月