manabimon(まなびもん)

本 ここじゃない世界に行きたかった 塩谷舞 

塩谷舞さん。世に放った記事の十中八九はバズっていた(バズるという言葉の意味がわからなかった私です・・・短期間で爆発的に話題が広がり、多くの人の耳目や注目を集め、巷を席巻すること、といった意味で用いられる言い回し、だそうです)「バズライター」でした。

そんな中で彼女は、「自分が書いているのか、大衆が求めるものを書かされているのか、もしくはアルゴリズムのマリオネットになっているのかさえもわからなく」なってきて、バズ職人としての暖簾を下ろし、「思考の直売所」と銘打って、限られた読者だけに向けての定期購読マガジン『視点』をはじめました。

彼女自身へのセラピーのような「自分の考えを綴る行為」がある編集者の目に留まり、この本が誕生しました。

「異なる視点を持つ友人が一人いる」という感覚で読み進めて欲しい、と彼女は綴ります。二項対立構造ばかりが目立ち、イデオロギーこそが人の輪郭であるという時勢に違和感をもち、「私」の考えを「私」のなかで深めていく彼女の文章は、「ゆっくりと静謐で美しい」(ブレイディみかこさん)です。

精神科医の斎藤環さんが治療において「ポリフォニーが大切、異なった意見が共存することを認めることが大事。ポリフォニーの反対語はシンフォニー・ハーモニー」とおっしゃっています。美しく音が調和することを私たちは求めすぎている。いろんな意見が共存している余白が多い空間は私たちは安心して自発性を育める。

舞さんの目指すところも「ポリフォニックな空間作り」なのだとこの本を読んで私は感じました。彼女は「共感性」が高いと感じます。共感性と協調性は別物。漠然と空気を読んだり、周りに合わせることを求める協調、ではないのです。彼女の感性は閉ざされることなく、しかし、流されることもありません。

内側の声に耳を傾けて自らの手で小さな理想郷をこしらえていく。まっとうで、真面目で、美しいそんな在り方からできたものをインターネットに乗せてあげれば、「『ここじゃない世界』はあちらから、いまいる場所までやってくるのかもしれない。」と彼女はこの本を閉じています。「ここじゃない場所」を求めて、何処へでもいける実行力、そしてここに帰ってくる決断力、そんなしなやかさに乾杯!と思って本を閉じました。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913346

2021年4月1日 新しい年度の始まりです。もやはSNSなしでは立ち行かなくなっている世の中のあり様に右往左往しつつも、SNSだろうが何だろうが変わらない大事なものを見失わないでやっていきたいと思う4月1日。エイプリールフールではありますが・・・。