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本と集い 検証『新自由主義と教育改革』『大阪維新の会』

隆祥館書店主催、作家さんとの集い328回(2024年9月28日)は、『新自由主義と教育改革 大阪から問う』(岩波新書)の著者、大阪大学大学院人間科学研究科教授の髙田一宏さんがゲストでした。サブゲストは松井一郎前大阪市長に「提言書」を書き、全国から共感が寄せられた久保敬さん、現役の大阪市立中学校教員の中林沙也加さんです。

大阪維新の会は、2010年1月大阪府知事橋下徹(2008年より大阪府知事)と大阪府議会議員松井一郎が立ち上げた地域政党です。2011年4月の統一地方選挙で大阪府議会の過半数を獲得、市議会や堺市議会で議席数を大幅に増やしました。結党後十数年で急速に影響力を増しました。2023年現在大阪府知事は吉村祥文、大阪市長は横山英幸です。

谷町六丁目の駅からすぐ、隆祥館書店多目的ホールは満員でした。まずは髙田一宏さんからの、大阪の教育の現状についての問題提起です。

2011年橋下徹知事は「大阪教育緊急事態宣言」を出します(2008年全国学力テストの成績が低迷したことを受けてテストの市町村別の結果を公表しようとしたのに対し反対した教育委員会を「クソ教育委員会」とこき下ろし、大阪の教育は「民営でいい」と発言しました)。

大阪府の教育は、差別廃止・格差解消に、積極的に取り組んできた、それは全国でも唯一無二の取り組みだった、と、社会学者の髙田さんには、見えていました。しかし、維新政治は、「学力の平均値を向上させる」という号令のもと、独自の学力テスト・学校選抜生の導入・公立高校の撤廃、などの「改革」にを行いました。結果は・・・2022年度高校不登校は大阪府が全国一になり、学力調査においては常に横ばいで(※1)全国平均を下回ったまま、という状況になっています。

(※1 実は、2015年のみ上昇しました。この時は、大阪府は、学力調査を内申書に活用するといい、文科省はNGを出しましたが、押し切って強行されました。)

これまで、障がいがあっても地域で学べるように、という共生の考えを推進し、また外国籍の子どもたちにも教育機会をという考えから特別枠を作るなど、マイノリティのニーズに応え、多様性を認めていく、という理念が、大阪の教育には強くありました。しかし少数のニーズに応じるのでは「選挙に勝てない」のです。それで、大雑把な「大阪の学力向上」「授業料無償化」という掛け声で、マジョリティの心をとらえようとしたのが維新の「教育改革」でした。

久保敬さんの発言。1985年に久保さんが教員になった時に、人権教育に力を入れていた学校では「家庭訪問」を大切にしてきました。子どもを知る、親とつながる「アンテナ」だったのです。しかし、公募校長制が導入され=教育の場に市場原理を持ち込み、家庭訪問は激減しました。効率が悪いからです。相互評価制により、教員同士、また教員と生徒児童の間を分断し、お互いが監視し合う場が醸成されました。「教育の中立」を謳うけれど、しかし、政治主導の教育改革に中立はあり得ない、いろいろな意見を闘わせて妥当なラインを見つけるのが1番の中立なのに、そのような議論ができなくなっているのが現在の現場です。(久保さんについてはこちらを参考にしてください。)

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司会の二村さんからも憤りの声。小学校は地域の核なのに、学校統廃合には住民の入る余地はないのです。

中村沙耶香さん。テストテストテスト(中間、期末、実力、大阪府チャレンジ、全国など)で常にテストの結果に向き合わされ、圧をかけられている。大阪市はチャレンジテストで学校の格付けをして、内申書にも利用している。大阪府と運用が違うという不公平。現場では雑談が減り、遊び心も減りました。

鼎談、およびフロアからの発言に移ります。その中で印象に残った話題。

2014年大森不二雄さんが公募で大阪府教育長になりました(現在東北大学)。問題発言により退任して一ヶ月で特別顧問になり、2024年3月まで大阪府の教育を牛耳ってきました。競争を煽り、教職員を締め付けたことで、暴力行為が減り、テストの成績が上がった、と成果を語ります。しかし髙田さんの分析でも明らかなように、成績は上がらず、不登校は増え、現場は疲弊しています。そもそも、学力とは何か?テストの点数だけで測れるものではないはず。子どもたちに、「考える力」をつけるために、教員が「考える」ことをせず機械的に言われたままの授業をしていてはろくな結果にならない、ということは明らかです。

会場は満員、現場の先生方も多くおられ、発言も多くあり、イキイキとした場となりました。「新自由主義と教育改革」を出版した岩波書店の担当の方や、ジャーナリストの木村元彦さんも、いらっしゃってました。

私は大阪の公立高校におりました。それまでが100%良かった、とはもちろん言いません(徐々にさまざまな変化が起きていたことは確かです)が、2011年以後は、特に、さまざまな息苦しさ、憤りを感じながらの、教員最後の8年間でした(2019年3月退職)。

そして今は、週に一度程度小学校で、SCとして、お手伝いをしていますが、現場の先生方の大変さ(頭の下がる思いをいつもしています)はますます強くなっていると感じます。多少大変でも、やりがいや夢や喜びがそこにあれば、人は集まってくるものです。学校の教師を希望する人が減っている、という現実は、学校がそうではない所になっていることを示しているようで、とても残念です。教師の数を増やして、子どもたちに接する時間を保証するだけで、ずいぶん変わると思いますが、なかなかそうは進まない現実があります。

ため息をつくばかりでなく、何ができるのかを考え続け話し合うことは大事だ、と感じた集いでした。

2024年9月28日(土)  なかなか書くことが追いつきません(今日は10月10日・・・)。学校は大変な場になっていますが、一方で健やかなこころの交流もたくさんあり、とてもいい場であることも確かです。現場の先生たいが頑張っていられるのも、そういう喜び、が、やはりあるからです。さて、今から学校に行ってきまーす。