manabimon(まなびもん)

「ウポポイ」と「アンという名の少女」

北海道で「ウポポイ」に行き、帰阪して「アンという名の少女・シーズン2」の第9回「かつてのわれらは今のわれら」を観ました(日曜夜11時NHK総合)。「アンという名の少女・シーズン2」は第10回で終わり、11月28日からは「シーズン3」が続けて放映されています。

https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/454464.html

「アンという名の少女」は、1908年に出版された「赤毛のアン」を原作とするカナダのテレビドラマです。Netflixで配信されて大反響を生んだそうですが、Netflixに無縁な上、情報に疎い私が目にしたのは、昨年「NHKが放映するよ」と友人に教えられてのことでした。

「赤毛のアン(Anne of GreenGables)/ルーシー・モード・モンゴメリ作」を繰り返し何回も読んだ少女時代を送った私ですが、これまで映像化されたものは何一つ観ていません。単純に観る機会がなかっただけ、なのですが、どこかで自分の中のイメージが壊されることが嫌だったのだと感じます。新しいアンシリーズも、「ちょっと観て止めることになるかな」と大した期待を持たずに身始めました。

そばかすだらけの赤毛の痩せっぽっちのアン、厳格な顔をしたマリラ、優しくて繊細なマシュウ、お節介焼きのリンド夫人、意地悪で親切な友達たち・・・登場人物が皆イメージにピッタリです。でも原作にない展開や登場人物に、初めは違和感を持ちました。とはいえ、全く目が離せないのです、面白いのです。ザラッとした硬質の映像からは、アンの生きた時代の容赦ない現実が浮かび上がってきます。ネットで検索してみると、原作には書かれていないけれど、当時のプリンスエドワード島・カナダにあった様々な人々の暮らし、様々な事件、を取り入れたこの作品には賛否両論が寄せられているとのこと。

心待ちにしていたシーズン2の放映が始まり、さらにビックリするとともにこの作品に惹きつけられました。もはや「赤毛のアン」とは違うのではないか?別の主人公での別の話にしたほうがスッキリするのでは?という気持ちも生じましたが、一方で、あのアンだから、あのマリラだから、あのマシュウだから、あのリンド夫人だから・・・そういう展開になるよね、と思えるところに、原作の力、そして制作者の力を感じました。

このシリーズ、回毎のタイトルも秀逸です。

シーズン1「運命は自分で決める」「私は罠にはかからない」「若さとは強情なもの」「宝物は私の中に」「固く結ばれた糸」「後悔は人生の毒」「あなたがいてこそ我が家」・・・これは物語の中でアンが好きだと公言しているシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」からの引用なのだそうです。

https://www.nhk.jp/p/anne/ts/37R5MJZ1WZ/blog/bl/pGWKdQBD3G/bp/pqeX2exng1/

シーズン2「青春は希望の季節」「小さなしるしは測定できるが、その解釈は無限」「本当のものを見るのは心の目」「かなえられぬ希望の痛ましい焦り」「彼女の生涯を決定した行為」「独断的結論に私は抗議する」「気分が変わるように記憶も変わる」「事実を認めまいとしてもがく」「かつてのわれらは今のわれら」「この世界に増大する善」

シーズン2の題は、ジョージ・エリオットの「ミドル・マーチ」からの引用だそうです。ジョージ・エリオットは男性名で小説を発表しましたが、女性で本名は「アン」!。そして、シーズン1の最終回でアンが、ダイアナの独身の伯母さんのジョゼフィンから贈られた本がこの本だったのです。《ドラマでは作家の名前だけで、タイトルは言っていませんでしたが、アンが口に出して読んでいた箇所があります。「私たちは互いへの愛情を長い間胸に抱いてきました。この愛を何かのために犠牲にしたら、人生はむなしいものになります。この愛と貞節を、あらゆる宝物と同じように、永遠に守っていきます」。これは第6部、第57章に出てきます。 》とNHKのHPにあります。

https://www.nhk.jp/p/anne2/ts/Y5K7QL16N3/blog/bl/pWp1oogLaB/

シーズン2では、シーズン1に増して、人種差別、ジェンダー、など様々な問題が物語に織り込まれて行きます。そしてシーズン3にはカナダの先住の人々も登場します。私は、丁度「ウポポイ」を訪れ、北海道の先住民族であるアイヌ民族について考え、帰宅直後にシーズン3を観て、よくわからないままに、またいろいろ考えました。

実は、2007年に「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に対して、カナダは反対票を投じて、調印していません(オーストラリア・ニュージーランド・アメリカも同様。日本は賛成し調印)。アメリカは2010年オバマ大統領が宣言に調印しました。カナダは今年2021年6月に国連宣言を順守する法案を可決しました。

先住民族を多く持つ国々の問題の深さ、大きさを物語る現状です。日本が条約に調印したことは喜ばしいことですが、それは、先住民族が少なく同化が進んでいることの裏返しであるのかもしれません。

制作はカナダCBCとNetflix。Netflixでは既にシーズン3まで配信され、大人気なのに、2019年制作打切りが発表され、シーズン4の制作嘆願に150万を超える署名が寄せられているそうです。CBCの社長は「長い目でNetflixはカナダの産業の害になるため共同製作は中止する」、Netflixの影響を「文化帝国主義」と批判しているとのことです。

それならばCBCが単独で新たなシリーズを作ればいいのに・・・と、実情を知らない単純な私は考えてしまいます。

この制作打ち切りについてネット検索をしてみたらあるブログに到達しました。「カナダの寄宿学校跡から大量の子どもの遺骨や墓が発見され、先住民の子どもたちが、民族同化=先住民族の文化を消すために寄宿学校に閉じ込められ英語教育を強要され、虐待され、殺されまでした歴史が浮かび上がってきた。それは現在中国でも行われていることで、中国政府がカナダ政府に圧力をかけ、カナダ政府がアンという名の少女の制作を取りやめさせた」という内容でした。筋がよくわからないのですが、どこの国にも(もちろん日本でも)同じような負の歴史はあり、現在も世界中のあちらこちらで同様のことはあります。今、特に北京オリンピック前、中国における人権問題が大きく取り上げられていますね。

このブログでもう一つ気になったことは「日本のアイヌ」は「偽物の先住民族だ」とあったことでした。このブログだけではありません。同様のことを声高に言う人はかなりいて、札幌市会議員まで同様の発言したことがあります。

https://www.huffingtonpost.jp/2014/08/17/kaneko-yasuyuki_n_5685245.html

659(斉明天皇4)年、阿部比羅夫が後方羊蹄(シリベシ)に政所を置いた、という記録があり、この方羊蹄(シリベシ)は北海道であろうと考えられています。北海道史ではこの頃はオホーツク文化が南下し、一方で擦文時代と名付けられています。784(延暦3)年、大伴家持( )が征討軍のトップ「持節征東将軍」に任命され、多賀城(現在の宮城県)に向かいます。この時点での日本国の砦の最北端はここです。そして北海道史を見ると1200年ごろからがアイヌ文化期とされ、アイヌ民族との交易などの記録が残っているのです。

このような歴史を踏まえてなぜアイヌ民族は偽の先住民族だと言えるのかよくわかりません。

日本だけではなく、国というものの成り立ちには民族(部族)同士の交易や対立があり、勝利をおさめた者が、負けた者を捕らえ苛酷な労働を強いたり、敗者の文化を否定したりしてきた歴史が不可避です。そのような歴史に蓋をするのではなく、そのような歴史を踏まえて、今、どのように人と人との関係を考えるのか、が大切なのだと思います。

「アンという名の少女」が優れているのは、原作の「赤毛のアン」に当時の社会の有り様をできるだけ隈なく照射して、登場人物の造形を立体化しているところだと思います。マリラやマシュウの持つ悲しみや苦悩について「赤毛のアン」を読んだ時は深く考えることはありませんでした。当時のカナダに黒人がいたこと、先住民族がいたこと、も想像もしませんでした。今、そういう人々が登場して展開される新しい物語を観て知って考えることができるのは、大きな驚きでもあり喜びでもあります。

もう一度「赤毛のアン」シリーズも読み返してみたいとも思います。私の読んでいたのは村岡花子さんの訳ですが、他の方の新しい訳で読むのも面白そうですね。高畑勲さん作のアニメも観てみようかな。

また、「コタンの口笛(石森延男)」

https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784038501708

「銀の雫降る降る(藤本英夫)」

https://www.amazon.co.jp/%E9%8A%80%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%9A%E3%81%8F%E9%99%8D%E3%82%8B%E9%99%8D%E3%82%8B-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E9%81%B8%E6%9B%B8-%E8%97%A4%E6%9C%AC%E8%8B%B1%E5%A4%AB/dp/4106001578

「静かな大地(池澤夏樹)」https://www.iwanami.co.jp/book/b256412.html

も再読しなきゃ。「ウポポイ」で、アイヌを取り上げた文学作品や映像作品をもっと大きく取り上げて欲しいな、と思いました。

 

2021年11月30日・・・ああ間に合わない12月になってしまいました。

追記)アンという名の少女について

逆転人生・日本初のセクハラ裁判が教えてくれる15のこと〜とアンという名の少女まだ日本にセクハラという言葉すらなかった30年前、前代未聞の裁判が開かれ、前代未聞の判決が降ろされた。ありがとう!川本さん。...