manabimon(まなびもん)

映画 教育と愛国

https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/

地味な内容ながら公開後たちまち話題となり、上映館も増えているというドキュメンタリー映画です。制作の毎日放送に拍手。淡々と事実と証言を積み上げ、現状の危うさを人々に伝えます。ぜひ多くの人に観ていただきたい映画です。

『2017年にMBSで放送された番組「映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか~」は、放送直後から大きな話題を呼び、その年のギャラクシー賞テレビ部門大賞、「地方の時代」映像祭では優秀賞を受賞した。2019年に番組内容と取材ノートをまとめ書籍化(岩波書店刊)、2020年には座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで上映もされた。 これだけ長く注目され続けるのは、多くの人にとって教科書問題が身近であり、またこれからの社会を考えるうえで「教育と政治」の関係が重要であるという証左ではないだろうか。いくつもの壁にぶち当たりながらも追加取材と再構成を敢行し、語りは俳優・井浦新が担当した。いまあらたに証生した映画版「教育と愛国」がいよいよ劇場公開となる。』(チラシより)

1997年「新しい教科書を作る会」が発足しました。その中心にいた東京大学名誉教授伊藤さんのインタビューの場面が衝撃的でした。「歴史から何を学ぶのですか?」という質問に対し「学ぶことなんてないのです」・・・インタビュアー絶句・・・。学ぶ必要がないって、教科書は学ぶために作るものではないの?この方の論理はどうなっているの?

歴史から学ぶことはたくさんあります。特に、太平洋戦争に突入し、悲惨な敗戦を経験した日本が、二度と同じことを繰り返さないために、その戦争の事実を知ることはとても大事です。考え方受け取り方の違いがあるならばそれを列記して、違いを知ることが大事。それなのに、「被害だけでなく加害の歴史も知る必要がある」という観点から歴史の教科書を作っていた会社が倒産に追い込まれた・・・。

「日本人の誇り」を口にする、「道徳の大切さ」を口にする、その口が汚れて見えるのは何故か?目的のためには手段を選ばないことが透けて見えるから。政治はどんどん教科書に介入を強めています。

吹田市で、生徒たちに「考える力をつける」を目標に歴史授業をしていた平井先生が新聞(共同通信)に取り上げられた時、大阪府の吉村知事はTwitterでその先生の授業を批判しました。公人、それも大阪のトップに立つ人として、あるまじき行為だと私は思います。しかしインタビューで問われた吉村知事は、「あなた方、報道関係者が拡散しているのに何故自分が意見を拡散してはいけないのか?」と論理をすり替えて、報道側を批判します。「知事」であるという圧倒的な権力を振りかざして教室に介入することを「是」とする姿勢は現場を萎縮させるばかり。大阪府教育委員会は平井先生の授業を「不適切ではなかった」と判断したのにも関わらず、吹田市教育委員会は平井先生を「訓告処分」にしました。

2014年安倍内閣の下、教科書検定基準の法律が変えられ、閣議決定などの政府の意向が学問的検証を経ることなく教科書に反映されるようになりました。東京弁護士会は反対の意見をHPに載せています。https://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-402.html

検定で認定された教科書に対して、閣議決定によって変更が行われたからと、「書き直し、訂正、を申し出るように」との文科省通達。2021年の閣議決定を理由に、「従軍慰安婦」という言葉は適切でないから「慰安婦」に、「強制連行」の事実はないから「動員」に、訂正するように「強制」するのではなく「申し出る」ことを求めて、「教科書会社主体で書き換える」という事実を積んでいくのです。「強制」ではないけれど「強制」なのです。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/168575

一方で「ともに学ぶ」を合言葉に、違う意見を列記し、子どもたちに考える力を身につけてもらうことを主眼とした教科書の売れ行きが伸びています。http://manabisha.com/

この教科書を採択した学校に対して批判の内容を書いた葉書が(多くは差出人不明)多く送りつけられるということがありました。差出人名を書いた人の中に「森友学園問題」の主役の一人籠池氏もいました。「日本会議の上の人から頼まれたんだ」という籠池さん、、安倍首相の事を「ジキル博士とハイド氏」になぞらえていました。

ジェンダー論フェミニズム論を専攻する四人の研究者の「性の平等に向けた日本の女性運動や従軍慰安婦問題に関する共同研究」を、2018年杉田水脈国会議員は、ツィッターや国会質問で「捏造」「活動家支援に流用」などと批判しました。その行為に対して2019年研究者たちは「ネットで誤った情報が拡散されて誹謗(ひぼう)中傷を受けた。影響力が大きい国会議員の発言として言語道断だ」と損害賠償を求める裁判を起こしました。しかし2022年5月名誉毀損に当たらないと棄却されました。

反対意見を持った人に対して、権力を振りかざし威嚇する、大声をあげ威嚇する、そのようなやり方に対してどのように対峙すればいいのか本当に難しいと思います。対話を積み重ねる姿勢が大事なのですが、なかなか実際にはその姿勢は機能しない・・・。

この映画の監督の斉加尚代さんは、ディレクターとしてテレビ番組の企画 https://rkb.jp/article/27168/ 

や本の出版 https://www.iwanami.co.jp/book/b452043.html

をコツコツと積み上げて共感を集め、このドキュメンタリー映画を完成し、私たちに問い続けます。その「続ける力」「続ける姿勢」に敬服。

未来を担う子どもたちが読む教科書ができるだけ広い視野から執筆され、本当に「考える力」を養う授業が行われ、子どもたちの心に「地球人」としての良識が育まれることを切に願います。

2022・6・5(日)