本の帯「舞台という、異界。舞台という、奇跡。・・・演じること、観ること、観られること。ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係を描く、極上の短編集。」
まさしくその通りの本でした。極上です。
どの主人公も儚く脆く馴染まず孤独で妙です。でもどの主人公もこの上なく魅力的です。どの物語にも「舞台」がしつらえられており、その異界で繰り広げられる物語は奇跡を生み、また死を招きます。
バレエ『ラ・シルフィールド』、テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』、『オペラ座の怪人』のあらすじの音読、帝国劇場での『レ・ミゼラブル』、足元の操り人形、装飾の劇場・装飾の役者、シベリウスのヴァイオリン協奏曲とストラヴィンスキーの春の祭典、廃墟の芝居小屋。
どの舞台も不思議な静謐さに包まれ、この世から少し離れたところにあります。現実がどこにあるのかわからなくなりそうになります。惨たらしい姿惨めな姿も遠慮なく描かれるのですが、凄惨ではなく、恐ろしいのですが、絶望的ではなく、とはいえ、希望に溢れているわけでもない。それが現実なのだと、逆に思わされた、読み終わりでした。
まさに魔法使い、小川洋子さん。
https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/tenohiraninemurubutai/
この魔法使い、「舞台」という沼にハマっておられるようです。そのきっかけとなったミュージカル俳優福井晶一さんとの、この本の刊行記念の対談も、とても面白かったです。
https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/tenohiraninemurubutai-1/
2023年3月24日(金) 電車の中で揺られながら読んでいました。その揺れが、電車の揺れなのか。自分の体の中の揺れなのか、頭の中の揺れなのか、わからなくなるときがありました。