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本)そこに工場があるかぎり 小川洋子

読んでよかったとしみじみ感じた一冊。

縫製工場、イグサ工場、アイスクリーム工場、お酢の工場など、子ども時代の思い出にたくさん残っている工場=圧倒的な世界の秘密、から、驚異、畏怖、感嘆、陶酔・・・などあらゆる感情を味わったそうです。その思い入れ、瑞々しい体験、を、蘇らせ本の形にしたいという願いから、洋子さんの工場めぐりが始まりました。

見学がスタートしてから5年の歳月をかけて出版されたこの本は、時間をかけて取材し、工場との出会いをじっくりとかみしめ原稿にし、という行程の中で熟成された、瑞々しい心の動きに満ちています。それぞれの工場で働く方々の思い、洋子さんの思い、が絡み合って、私たちにも新しい心の動きが生まれ、波のように広がっていきます。

細穴放電加工(株式会社エストロラボ〈細穴屋〉・大阪) https://estrolabo.com/ 、お菓子工場(グリコピア神戸)https://www.glico.com/jp/enjoy/experience/   、丘の上のボート屋さん(桑野造船株式会社・滋賀)https://k-boat.co.jp/      、サンポカー・ベビーカー・介護用品(五十畑工業株式会社・東京)http://www.isohata-swan.co.jp/sanpo.html      、  ガラスカラム(山口硝子製作所・京都) http://www.yamaguchi-glass.com/sp/index.html  、ペンシル・エコロジー商品ラボ(北星鉛筆株式会社・東京) http://www.kitaboshi.co.jp/home/otonanoenpitu.html  。

本の制作に入ろうとした矢先に新型コロナウィルスによるパンデミックという事態に巻き込まれ、人間が直接出会って言葉を交わすというコミュニケーションの根本が奪われました。6つの工場に改めて連絡を取ったところ、変化に対応する努力を続けながら未来に繋がるチャンスをつかもうとされており、洋子さんは「改めてものづくりの底力を見せられるよう」だと感じたといいます。

どんなに時代が移り変わろうと不動の基本=人間が人間にとって必要なものを作る、に向き合う誠実さ、美しい姿、に出会えたことを感謝しながらその出会いを丁寧な文章にあらわしてくださった魔法使い小川洋子さんに、感謝です。

2023・4・10(月)今日は文楽劇場に行きました。「上方浮世絵展」では、江戸に遅れること約1世紀、18世紀末から上方で継続的に制作された浮世絵を観ることができました。演目は「妹背山婦女庭訓」の三段目太宰館の段と妹山背山の段。日本版ロミオとジュリエット、と言われる演目でもあります。また文楽ではこのシナリオが最後のものになるそうです。なんと古代(天智天皇の世)を舞台にしながら、「義理人情」と「男女の愛」という文楽定番の主題を描いています。真ん中に川を配し、舞台を左右に割り、義太夫も左右に配し掛け合う形での進行は華やかな中に緊張感あふれるものでした。250年前の作品を今見ることができるのは僥倖と言えると思います。

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2023/5411.html

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たつこ
たつこ
今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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