水無月、百合もあちらこちらで美しく咲いています。
大伴家持が妻に会いたいという思いを込めて歌った
さ百合花 ゆりも逢はむと 下延ふる 心しなくは 今日も経めやも
大友家持 万葉集 巻十八 4115
を前回紹介しました。「後に逢う」という意味が込められているという百合の花は、万葉集には１１首詠まれています。
本日再放送のNHK「趣味の園芸〜万葉の花特集」で、百合が取り上げられていました。
https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_tn_detail&target_xml_topic_id=engei_001467
百合研究家の小笠原左衛門尉亮軒（すごい名前ですね）さんと万葉研究家の大谷歩さんが登場。
百合は日本古来から自生したものが１５〜６種あり、そのうちの１０種が日本固有のものだそうです。江戸時代以後世界中からのプラントハンターが百合に憧れ日本にやってきたそうです。
そういえば、昨年秋沖之永良部島に行った時、百合栽培で栄えた歴史に出会いました。鹿児島県南端近くの島から世界中に百合が送られたそうです。
さて、番組では、大伴家持の歌が紹介されていました。越中国国司だった時、部下が宴を開いて、百合の鬘（かずら＝頭につけるかざり）を飾っていたのをみて詠った歌。
あぶら火の 光に見ゆる 我がかづら さ百合の花の 笑まはしきかも
大伴家持 巻十八 4086
（あぶらひの ひかりにみゆる わがかずら さゆりのはなの えまわしきかも）
灯火の光の中に見える私の百合の髪飾り、この可憐な百合の花のなんと微笑ましいこと。（また後にも亭主やここであった皆と出会うことができることを願うよ）
「亭主に招かれてやってきた宴の主役となっていた百合の髪飾りが、夜のともしびの光に照らされてゆらゆらと揺らめく、その百合の清らかさ、みずみずしさ（さ百合の、「さ」という接頭語には神聖さ、清らかさが込められています）、に思わず笑みが漏れるよ、皆も微笑みを浮かべ楽しい宴の夜はふけていくよ。」と、家持は即興で詠じます。都から遠く離れた越中国でも人々と仲良く楽しく暮らしていた様子が伺えます。
家持という人は女性にモテたことで有名です。万葉集には家持に送られた女性からの歌がたくさん採用されています（このことについてはまた後に・・・）。それだけでなく、家持は男性からもモテたそうです。（友達からの情報）家持の召使金明軍は長年家持を慕い続け、熱烈な愛の歌を捧げ、これも万葉集に８首採用されているそうで、また家持自身も別の美少年に愛の歌を送っているそうです（このことについてもまた後に・・・）。家持は今でいうバイセクシュアルだったのでしょうか？おそらく、家持は、分け隔てなく人好きな人だったのでしょうね。上の歌にも人好きな家持の様子を伺うことができます。
百合に話を戻します。
筑波嶺の さ百合花の 寝床にも 愛しけ妹ぞ 昼も愛しけ
大舎人部千文（おおとねりのちふみ）巻二十 4369
（つくばねの さゆるばなの よとこにも かなしけいもぞ ひるもこいしけ）
筑波山の百合の花のように、夜の寝床でも美しかった妻は、昼だって美しくて愛しくて仕方がない。（後にまた会うことができることを心から願うよ。）
作者の大舎人部千文は常陸国の出身といわれ、筑波山が歌われていることからこの百合はヤマユリだと考えられています。
万葉集には防人（さきもり）の歌が多く載せられています。家持が兵衛少輔だった755年（天平勝宝7年）に防人の歌を集め、84首を万葉集に採用したのです。
防人は、大陸からの侵略に備えて九州などに配置され、東国各地から集められ、3年以上の長きに渡って軍事訓練と耕作に従事させられました。日本書紀（720年）古事記（712年）などの正史には載らない、この制度に翻弄された東国の人々の悲しみや辛さが、万葉集を読むことで私たちに伝わります。家持は朝廷側の人間ですが、防人に直接接することにより彼らの声を歴史に残そうと考えたのだと思います。素晴らしい人間力だと思います。
奈良市の、率川（いさがわ）神社で、毎年６月16日から18日、三枝（さえぐさ）の祭りが行われているそうです。大宝令で、国の祭りとして規定されていたお祭りだそうです。神社に祀られている媛蹈鞴五十鈴姫命（ひめたたらいすずひめのみこと）＝神武天皇皇后にササユリを捧げ、疫病を鎮めることを祈る祭りです。媛蹈鞴五十鈴姫命の住んでいた三輪山の麓にはササユリがたくさん咲いていたと伝わります。今年はコロナ禍のため公開されないそうですが、今年こそ疫病を鎮めるための力を存分に発揮していただきたいものですね。http://isagawa-jinja.jp/
可憐に咲く百合の花には多くの人々の様々な祈りが込められている〜大事に思う人と後に元気に再会したい〜のですね。
2020.水無月.16.
