自分と向き合う技術

セルフポートレート〜拒食症を生きる〜(ドキュランドへようこそ)

昨夜(11月6日)衝撃的な番組をみました。「(ドキュランドへようこそ)ノルウェーのドキュメンタリー番組、「セルフポートレート〜拒食症を生きる」。

ギリシャの人たちの写真を撮っている痩せっぽっちの女の子。陰影に富むその写真は被写体の人生そのものを一瞬に切り取り、一編の詩のような、素晴らしい芸術作品となります。女の子にしか見えない28歳の彼女は、写真と出会うことで「生きたい」と思うようになりました。彼女の名前は、レネ・マリエ・フォッセン。

「自分のことも病気のことも恥じてきました、でも、恥を脱ぎ捨て、ありのままを見せるときめた、生きることの痛みと、そこにある美を表現したいのです。なぜなら、痛みを知る人は強さを身につけて立ち直れる。拒食症の女性としてではなく写真家として認識されたいのです。」

そう語るレネは、10歳から拒食症を患い、成長を自分の意思で止めた28歳の女性。生きることに苦しみながらも「私の誇りは死のうと思ったことは一度もないこと」という彼女は病気に苦しむ自分の姿を写真に撮り、その写真が著名な写真家に認められ、展覧会を開き、座談会で語ります。「写真は『芸術家としての人生』を与えてくれました。そして、長年の患う経験から、『人の精神を深く知る』ようになりました。」

そして彼女は『人と向き合う行為=ポートレイトの仕事』に向かったのです。ギリシャで難民の子どもたちと過ごした夏、子どもたちの写真を残すことで戦争の悲惨さを伝えようとしました。その写真は心に迫ります。そのことを語って、彼女は「私も少しはいい存在なのではないかと思えた」といい、会場からの温かい拍手で包まれました。

多くの人から写真に興味を持たれ、しあわせに満ちた誕生日の翌日、レネの座る助手席に脇道から飛び出した車が衝突します。そして彼女は首に変調を来し、落ち込んでしまいます。

レネの写真の持つ力で多くの人の心を打ち、協力を申し出る人も現れます。しかし「病気を手放すのが怖い、捜索活動に支障をきたすかも」「ベットから出られるようになりたい」「私には写真しかない」「この先どこへ向かえはいいのか・・・」「首の痛みがなくならない」「写真が撮れない」〜〜〜彼女の葛藤・苦悩はさらに深まります。

母の外出中薄着で雪の中に横たわり凍死を試みます。でも、自分で祖父に電話を入れて、死ぬことをやめます。それでも折々に襲ってくる「首の痛み」が彼女を押し潰そうとします。事故に遭う前には「もう拒食症は必要でないかも」と思い始めていた彼女、「確かさ」を求めて前を向こうとしていた彼女を、苛酷な試練が襲ったのです。

「私は無力、食事を減らすことしかできない。そんな生き方をやめたい。」と病院に入院した彼女は少しずつ回復しています。「鳥の声」「母」「父」「祖父」「ヒオス島」「光と影」・・・「写真」。写真で生きる力を得たのに、その力が今は湧いてこない、怖れに満ちた心持ちの中で、多くの人々の愛の力で少しずつ希望が生まれます。1年の入院生活を経て自宅に戻ったレネは、「別人に生まれ変わった気分だ」と、事故以来離れていたカメラに向かいます。

「命とは そこに在るがゆえに愛されるべきもの 難しきは 命が望むまま自由に生きること」という美しい詩を読み「どんな凶悪な人でもみんな幸せになりたいと思っている、でもそれは難しいこと」「人生はすばらしくて謎に満ちた壮大な贈り物だと思う。だけど手に負えない」と語る彼女自身の言葉が詩そのものです。

心の中に湧き上がる様々な感情を放つことが恐ろしくて封じ込めていたけれどそれを「解き放つことが回復への道だと思う」と彼女は父と母と一緒に写真を撮ります。

2019年10月22日 レネは長年の栄養不足による心不全でこの世を去ったそうです。合掌。

衝撃的な番組でした。

一切のナレーションを入れずに、登場人物の言葉だけで綴られていく映像は美しく、みている私の心に突き刺さりました。不要なものを削ぎ落として人間の在りようの崇高さを表現しようとしたレネの生涯を語るには最適な方法だったと制作者に対しても敬意を持ちました。

再放送の予定はないようですが、次回の番組も興味深いので、金曜夜10時の「ドキュランドへようこそ」ぜひご覧ください。

https://www.nhk.jp/p/docland/ts/KZGVPVRXZN/

2020.11.8(日)立冬  拒食症のことを考えるときに私は必ず「かぐや姫」のことを思います。月にかえっていった(昇天=死)彼女が体現する苦悩と、拒食症の苦悩は重なると思うのです。

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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