我が家の近くでも萩の花を見かけるようになりました。日中はまだまだ暑いですが、日が短くなり、秋の気配は着実に訪れています。
萩の花は万葉集中で最も多く詠まれ、愛された植物です。歌の大半は作者不詳でしかも庭に植えられた萩の花を詠んだものが多いそうです。多くの人に愛された秋の花で、古今集や新古今集にも多く詠まれています。
我が背子が 挿頭の萩に 置く露を さやかに見よと 月は照るらし(万葉集巻十 2225)
わがせこが かざしのはぎに おくつゆを さやかにみよと つきはてるらし
わたしの好きな人が髪に挿した萩の花についた白露をはっきりと見よ、と月は照らしているらしい。
「万葉集全訳註(二)講談社文庫」の註には「宴席の歌」であり、「実際に髪に挿した萩の花に置くはずのない露をみた歌」と取るのが「風流」であると書いてあります。
私の勝手なイメージは次の通りです。恋人同士(大切な人同士)が、庭を歩いていて、萩の花を折り取って互いに髪に挿し合ってお互いの気持ちを確かめ合い、寿ぎ合った風景が浮かび、そして、その夜、美しい月がその場所に咲く萩の株を美しく照らす風景、時間が経って、露を結び、月の光にきらめき光るのを見て、あの大切な人のことを思っている人の姿が浮かびます。
夜遅く恋人たちが歩いている。煌々と光る満月の下、キラキラ光る露をこぼさないようにそうっと手折って恋人の髪に挿す。〜〜という風景を思い描く人もいるでしょう。
宮城野の もとあらの小萩 露をおもみ 風を待つごと 君をこそ待て 詠み人知らず(古今集694)
宮城野の原の、下葉もまばらになった萩は、露が重く枝がしなるので、風が吹いて露を散らし元に戻してくれるのを待っています。同じように、この私は、あなたがおいでになってくださるのだけを、涙を浮かべ、うなだれて待っています。
萩の花と自分とを重ね合わせて、うなだれ恋人を待っているよと告げる歌。風が吹くと露も涙も払われる、風よ吹け、ただじっと待っているのは辛いばかり・・・
風吹けば 玉散る萩の した露に はかなくやどる 野辺の月かな 藤原忠通 (新古今 秋上386)