BS世界のドキュメンタリー「I AM GRETA」前編後編(3月1・2日)。録画したものを一気に視聴しました。スェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥンベリさんの1年を追ったドキュメンタリー番組です。
番組の最後、「この1年間に殺された環境保護活動家は200人」の言葉に慄然としました。「グレタさんも殺されるのかもしれない・・・まさか、はない。恐ろしい戦争が起こっていて誰も止めることができない、まさかこんなことが起きるとは思っていなかった」と。
番組の冒頭、2019年荒波の太平洋をヨットで渡るグレタの横顔が映し出され「この数ヶ月の間に自分の身に起きたことを振り返ると夢の中の出来事のよう。まるで映画のようだった。とてもシュールな映画。筋書きがあまりにも現実離れしたものだったから。」と語りが入ります。
そして「温暖化という事態が起きていること」に反対するおじさんたちのコメントが次々と提示されます。〜〜〜「我々が気候変動を起こしたなんてそれこそ傲慢な考えだ。人間に自然を変える力はない」〜〜〜(彼らは一様に脂ぎっており高圧的に感じられます)。
2018年8月スウェーデン・ストックホルムで、お下げ髪の15歳の女の子、グレタ・トゥンベリが、「気候のためのストライキ」を行いました。「大人は言うこととやることが全然違います。『一つしかない地球を大切に』なんて言いながら気候危機の問題は気にもかけません。気候変動対策を求めて学校に行かずストライキ中です。もうすぐ総選挙、それまで続けます」と。
グレタに『学校に戻って勉強しなきゃ』とお説教する人もいました。大抵の人は彼女を無視して過ぎていきます。でも『一緒に座っていい?カッコイイって伝えたくて』と声をかける人が現れました。徐々に立ち止まる人々が増えます。彼らにファクトシート(出典つき)を配るグレタ。一緒に座る若者が現れ、グレタを報道する人が現れました。「後戻りできない転換点に差し掛かっています。抗議する理由は気候危機が重要な問題だからです。今対応しなければ手遅れです。誰も何もしないからできることをしています。」とグレタは15歳とは思えない堂々たる受け答えでインタビューに応じます。
横で見守るグレタの父スヴァンテ。「『やるのは自由、でも手伝わない』と言いました。「だから配布する詳細なファクトシートも彼女が自分で作りました。娘は気候問題については世界のほとんどの政治家より詳しいでしょう、興味のある事柄は写真を撮ったように記憶できるんです。」「娘が幸せならばそれでいい。」彼女の座り込みは三週間に及びました。
「人々はまるで地球がいくつもあるような暮らしぶりです。真実が見えているのは私のようなアスペルガー症候群や自閉症の人たちだけのような気が時々します」と語る彼女は「誰かと気軽におしゃべりしたり人付き合いしたりが苦手。何時間も黙り込んでしまいます。決めたことをその通りやるのが好き、興味を持った事柄にはレーザーのように集中して何時間続けれも飽きません」という子どもです。そんな彼女は、学校で見た映画(飢えたホッキョクグマ・ハリケーン・洪水・科学者たちがいますぐ行動を変えるべきだ)を見てすっかり落ち込んで食べることもできなくなりました。数年かかって回復、次第に「諦める必要なんてないと、できることがある」とわかったそうです。照明器具を消しコードを抜いて回るグレダに両親は驚きました。環境問題を考えない暮らしをしていた、よく物を買い、ガソリン車に乗り、飛行機で飛び回り、肉を食べ、「大丈夫心配はいらない」という両親の言葉に、グレダは震え上がったといいます。
彼女のフォロワーはあっという間に400万人になりました。一方でひどい書き込みをする人もいます。グレタの座り込みにも関わらず、スウェーデン国政選挙結果には環境問題は重視されませんでした。彼女は「スマホで録画して友達とシェアしてください。毎週金曜日にストを行います。議会の前に座り込みを続けパリ協定に沿った施策を要求します。皆さんの力が必要です。参加してください。」と力強いメッセージを送ります。「アルベド効果もキーリング曲線(※)も知らない政治家がいます。問題解決の糸口すら見出せない政治家やジャーナリストの存在に恐怖さえ感じます。」彼女のメッセージに多くの若者が集まりました。
グレタの元に、国連の気候変動枠組条約事務局から、ポーランドでのCOP24への招待の電話がかかってきました。2015年に裁定された『パリ協定』の実施に向けたルール合意を目指し約40か国からは首脳が参加します。『この先12年で排出量の半減が必要です。失敗すれば壊滅的な被害が全世界に及ぶでしょう』と報道されています。
子供たちの中でいつも仲間はずれだったグレタ。だから、家族や犬たちと過ごす時間の長かったグレタ。有機栽培の煮豆の缶詰や豆のパスタを持参して、父の運転する電気自動車でドイツに向かう途中の街でもプラカードを掲げるグレタ。そんなグレダがCOPの会場に動物性の食べ物ばかりあるのに憤ります。彼女はスピーチの言葉を考えます。「厳しいね」と父、「本当だもん」とグレダ。「大量絶滅はカットできる?」との父に「黙ってて」、彼女の意志を尊重する父。赤い服ピンクのパンツを履くグレダ。
『今回の会議は失敗が許されない』と言うアントニオ・グテーテス国連事務総長の隣に彼女の席は設けられています。「この25年国連の会議で多くの人々が各国の首脳に排出ゼロを訴えてきました。でも排出量は増え続け効果のなさを立証しています。だから私は指導者にではなく世界の人々に訴えます。彼らの裏切りに気づいてください。存続の危機を前にし、狂った選択による時間の浪費は許されません。変化の時が来ています。政治家が好む好まないに関わらず人々は立ち上がります。指導者が子供染みているから彼らの責任を私たちが負うのです。」グレダのスピーチは人々の拍手を浴び、人々はグレダとともに写真におさまりました。
グレダにスピーチ依頼が次々と舞い込みます。彼女の言葉はストレートで飾りなく大人を突き刺します。大人も彼女に意地悪をします。『気候変動は子供が関心を持つべき課題?問題意識をどう広げます?』との質問に対して、「はいもちろん。子供たちが最も影響を受けます」と応じるグレタ。その手はお下げ髪をぐるぐると回しています。賢く頑張るグレタ。
多くの人からインタビューを受ける娘を前に、「笑っているなんてすごいことです。」と父。「前は予期せぬ行動をするし、場面緘黙という症状も出た。ふさぎ込んでしまい一年間学校を休みました。私と妻と妹としか話さぬ時期が三年続きました。」娘は「映画みたい。パパラッチに囲まれちゃった」と笑いますが「でも今だけ。すぐ終わる」と冷静に事態をを把握しています。父も「そう月曜には皆お前の顔を忘れてる」と。二人で「誰も覚えていない、よかった」と宿舎に戻り家族や犬たちとのオンライン通信を楽しみます。
グレタの痛烈な言葉は、大きなニュースとなって世界を駆け巡り、若い世代が「地球を救おう」と動きだし、大規模なデモが世界中に広がります。ブリュッセルでは3万人ベルギーでは5万人、パリ、バレンシア、・・・リヨン、ナント、マルセイユ。そしてその事態を受け入れがたく感じる大人はヒステリックに「子供は学校に活動は自制を」と演説し、グレタを「左翼に利用されている」「精神的に病んだ子供は黙るべき」と批判します。(少女に対してそんなことを言ってよくも恥ずかしくないと感じます。)しかし、そんな大人をよそに、若者たちは繋がり「この気持ちは言葉では表せられません、ようやく何かが動き始めた。同じ関心を持った人がこんなにいる。目が覚めたら全部夢だった、そんな気すらして来ます」とグレタは喜びます。
グレダは、2019年ベルギーブリュッセルに招かれます。「変化は誰にでも起こせると教えてくれたのはあなた」と告げる若い仲間たちとグレタは共に行進します。「権力者たちは長い間気候危機に対処せず目を背けて来ました。その流れを止めるのは私たち。目の上のコブとなってストライキを続けましょう。」皆が両手をあげてクィーンの「We will we will rock you♪」に合わせ手を叩きます。
また、フランス大統領府にも招かれ、『議論したい』というマクロン大統領に対し、「人々の声に応える中心人物になる機会が閣下には与えられています。富裕国が先頭になって行動を起こすことが重要です。急がれた方がいいかと」と言ってのけます。大統領はグレタに学校のことを聞きます。「学校は私をサポートしてくれます。一生懸命勉強しています。」また、「気候関連の本をよく読む?」と聞く大統領に「はい、オタクなので」と笑いを返すグレタ。
ベルギー・ブリュッセルでの欧州経済社会評議会では、先に連帯した仲間たちと一緒に参加し「若者が世界を救ってくれる、だから希望を持てるとよく耳にします。でも私たちは希望を持てません。私たちが大人になってからではもう遅いんです。2020年前に温室効果ガス排出量を大幅に削減する必要があります。来年です。無策の後始末は始まったばかり。最後までやりとげます」とスピーチ。その次に演説したユンケル議長の変革報告のスピーチ途中、彼女は翻訳機を外しました。「なんのためにここにいるのか。あの人たちは自分たちはやっているとアピールしてスポットライトを浴びたいだけのような気がします」と語ります。「そんな生易しいことではないのです」「努力していると口でいいますがそれでは不十分なのです。」
リーダーたちの危機意識が低いと、焦りを募らせるグレタ。そんなグレタは、人々にもみくちゃにされ疲れていきます。また、父と対立したりします。、、、それでも彼女はまたスピーチ原稿に向き合います。彼女の言葉は人々に刺さり、人々を熱狂させます。
「学校に行けと言われますが、世界を変えるためにはやむを得ません。年を取って振り返った時、できることは全てやったと言えるよう今後も活動を続けます。」「危機を危機として扱うべきです。自然災害と環境問題が無縁でないことを広く知らせるべきです。海洋酸性化や森林破壊の問題、今が6度目の大量絶滅時代だということまで、これらのつながりを認識させないと。」
「みんなこう言います『あなたのすることは素晴らしい、我々もしっかりやって行くと約束する』。でも何もしません。きらびやかな宮殿やお城に招かれるたびに居心地の悪さを感じます。全員がそれぞれの役柄を演じるゲームの世界にいるようです。偽りの世界。ストライキに何人参加したなんてどうでもいいことです。大事なのは温室効果ガスの削減です。しかも今すぐに。」
多くの人がグレタに会いたがります。ローマ教皇もグレタに会い、励ましたりします。人々はグレタに期待を寄せます。しかし一方で「操り人形の少女はアスペルガー症候群。アスペルガー症候群の人は一つのことに固執しがち。グレタは気候問題に執着し社会のウソにだまされている。」「アスペルガー症候群でメディアの寵児、ただ具体策は何一つ示していない。具体策を示せないのに英雄扱いとは奇妙きわまる。逃げ口上は課題山積、ぺてん師め。」「原稿はママ頼み、でも泣き落としはお見事。PR活動には貪欲」「誰もお前に興味はないクソでもくらえ」という中傷のS N S投稿も多くあります。
あのロシア・プーチン大統領は「彼女の発言に対する熱狂には共感しない。世界は複雑に変化していると誰も教えていないようだ。アフリカやアジアにはスウェーデン並みの豊かさを望む国もある。」アメリカ・トランプ元大統領、その他、大きな顔をした恥知らずの大人たちが、ヒステリックに、あからさまにグレタを否定します。「極めて心配性な・・・デタラメを話す子ども・・・シャラップ!・・・」(それだけ彼女の影響力が無視できなくなっているということですね)彼女はそれらを受け止めますが、両親は彼女の安全を心配し、外出しないようにと言います(当然ですね)。でも、彼女は活動をやめて起こる事態の方がもっと心配、と言います。
彼女は緊急に呼ばれたりすることも多く、将来の見通しが立ちません。グレタは同志のみんなが燃え尽きちゃうんじゃないかと心配します。それでも伝え続けないとという気持ちを確認しながら彼女たちは進みます。「パニックになってください。家が火事だと思ってください。」「科学は無視できません。今は大量絶滅時代のただなかです。」「破滅的な傾向が進んでいます。」
欧州議会のスピーチで泣いていたグレタに対し、イタリアの記者はその理由を尋ねます。グレタは「自然な反応です」と応じます。「アスペルガー症候群を患っているのは事実?」との質問に「患ってはいませんが症状はあります」と応じます。なんと賢い少女なのでしょう!「イタリアであなたを過激なお子様と呼ぶ人もいる・・・」・・この記者は本当に嫌らしい、こんな小さな女の子を相手にして。
会議での大人の発言に彼女は違和感を感じます。2019年4月イギリス議会で「マイクは入っている?私の英語は大丈夫?最近心配なんです。」「皆さんはウソツキです。偽り希望を与えました。輝かしい未来が待っているだなんて。」「この半年ヨーロッパ中を旅して命に関わる話をしてきました。でも誰も興味がないようです。何も変わりません。排出量は増加の一途。活動の目的は皆さんとの記念撮影や称賛の言葉ではありません。さまざまな違いを乗り越え皆さんに行動してほしいのです。私たち子供は夢と希望を取り戻したいのです。マイクがオンで私の声が届いてますように。」
彼女は、学校を卒業し、優秀生徒として表彰されます。ギムナジウム(高校)に進学し、学業に専念したいと思いますが、それでも彼女のところには招待状が次々と舞いこみます。とうとう国連の温暖化サミットへの招待を受け、グレタは、環境に甚大な影響を与える飛行機ではなく、ヨットで太平洋を渡ると決意します。大変な挑戦に人々は熱狂します。
「言っていることとやることが違う人にはなりたくありません。」「現代では持続可能な生活が難しいことを示すためにヨットに乗って行きます。」多くの人が見送るイギリスのプリマスを出港したヨットの旅は過酷です。強い揺れ、波、音・・・。「責任が重すぎる」と涙するグレタ。
ニューヨークマンハッタンに到着したヨットを多くの人が迎えます。グレタに握手を求める人々。群れの中には役割分担があり、助け合って生き残ろうとする、人。危険を察知した者が仲間に伝える、それが私の役割、とグレタは思います。温暖化サミットに出席したグレタの言葉はやはり痛烈です。「すべてが間違っています。私がいるべき場所はここではなく海の向こうの学校のはずです。なのに、皆さんは若者に希望を託す。よくもそんなことが。皆さんは空虚な言葉で私の夢と子供時代を奪いました。でも私は恵まれています。人々は苦しみ命を落としています。生態系は崩壊しつつあります。でも皆さんの話はお金“永遠の経済成長”という名のおとぎ話。よくもそんなことが。30年以上前から科学は明確に示しています。対策は十分などとよく言えますね。必要な政策や解決策は全く見えてきません。私たちへの裏切りです。若者はその裏切りに気づき始めています。若者世代の目は皆さんに向けられています。裏切り続けるならば私たちは皆さんを許しません。世界は目覚め始めています。お気に召そうと召すまいと変化は起こります。」
彼女の言葉は真っ直ぐに人々の心を捉えます。2019年9月700万人以上が気候ストライキに参加。史上最大を記録しました。「危機を放置せず迅速に対処すれば問題はそれほど大きくならないはずです。そこには別の未来が待っています。より良い世界が。」
ストックホルムに帰ったグレタは語ります。「世の中の全てを白か黒かで見ているわけではありません。でも気候変動対策はどっちつかずではダメなんです。時々みんながアスペルガー症候群だったらいいのにと思います、気候問題に関しては少なくとも。」グレタは金曜のストライキをいまでも続けています。世界中の若者がそれに賛同しています。
はじめに書いたように、番組の終わりの「1年間で200人以上の環境活動家が殺されました。1週間に4人の環境活動家が殺されたことになります。」のアナウンスに戦慄を覚えました。そして若者の「なぜ私たちが立ち上がらねばならない?父母や祖父母たちはどこに?」の声は耳に痛かったです。
B-ReeL制作(スウェーデン)の秀作でした。
2022・3・7(月)美しい月が見えました。🌙
追記)彼女がアスペルガー症候群であることを揶揄する言説は間違っています。これまでにも、世の中の常識を動かし、大きな進歩をもたらした人々の多くは、感受性が強く、常人とは違うエネルギーを持ち、こだわり・鋭い視点を持って、そのエネルギーを発揮した人々です。
グレタさんについてはよく聞くけれど、実際のことはあまり知りませんでした。
番組についても知らなかったので、詳しい紹介読めてよかったです。
このままではいけない、すぐに行動を
この当たり前事がどんなに難しいか。
ヨットのはなし最初に聞いたとき私も「大人に利用されてるんじゃないの」と、友人にいったことを思い出しました。情けないね。
一点許されるとしたら、それは大人のすべきことでしょう、といったことだけ。
アニメじゃないけど、若者に、少女に、女性に
被抑圧者に「世界を救ってください」というのは、違うよね、
と改めて思いました。
さて、なにができるか、しなければならないか。