秋が深まってきましたね。柿が美味しい、また柿の葉などの複雑な紅葉が美しい季節です。
柿の木に鳥たちが集まってきて朝から賑やかです。「ピッピッピッ」
ヒヨドリ。花の甘い蜜や果物などを好んで食べます。日本ではごく普通に見られる鳥で、人によく慣れるので平安時代は貴族たちに盛んに飼われたそうです。ただ海外で見かけることは少なくて日本特有の鳥だそうです。
一年中日本では見られる鳥ですが、季語としては秋の季語になっていて、与謝蕪村の「ひよどりのこぼし去ぬる実のあかき」は、ヒヨドリの突いた後の柿の実を描いて素晴らしいです。万葉集には「ひよどり」は登場しませんが「呼子鳥」が9首歌われています。この「呼子鳥」が「ひよどり」か「かっこう」かと考えられているそうです。
ここでは、大伴家持の叔母にあたる坂上郎女の歌を取り上げたいと思います。
世の常(つね)に 聞けば苦(くる)しき 呼子鳥(よぶこどり) 声なつかしき 時にはなりぬ(万葉集巻8 春の雑歌 1447)
呼子鳥は人を恋しくさせるものとして厭わしく思われているが、その声にも心をひかれる頃になりました。
この歌は天平4年3月1日に佐保の家で歌った、とあります。この前年に旅人は亡くなり、家持は15歳ごろ、叔母の坂上郎女に歌の手ほどきを受けていた頃です。この歌は、同じ万葉集巻8・春の雑歌の二首め(一首めは志貴皇子の「石走る垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも」この歌大好きです・・・)に鏡王女(鏡王の娘で、額田王の姉とも同一人物ともされています。天智天皇の采女として仕えた後藤原鎌足の妻となったともいわれています。)の、「神なびの 石瀬(いはせ)の社(もり)の 呼子鳥(よぶこどり) いたくな鳴きそ 我が恋まさる(神のくだる伊波瀬の社の森で、呼子鳥よ、ひどく鳴くな。わが恋心が募ってしまうから)」を踏まえて、春が来る心地よさ、を歌っている歌。春が来る心地よさ、だけでなく、恋に落ちることの心地よさも歌われていると思います。坂上郎女は穂積皇子、藤原麻呂に愛され、同族の大伴宿奈麻呂と結婚。その間の子、大嬢が後に家持の妻となります。万葉集に84首も採択された歌の名手は恋の喜びを誰よりも強く知っていたのでしょうね。
呼子鳥、ヒヨドリに、全部つつかれてしまう前に、柿の実は早めに収穫するのが賢明ですね。しかし鳥の集まらない柿の木もあります。近くの保育園の柿の実は美しく色づいていますが、渋柿なのか、鳥が全く食べません。
柿は弥生時代に桃・梅や杏と同様大陸から栽培種が伝来したと考えられているそうですが、当時日本にあった柿は渋柿と考えられています。「敏達天皇御世 依二家門有柿」と、新撰性氏録(815年~832年)の中にあるそうで、在位527〜585年の敏達天皇の時代に庭に植えられていたということがわかるそうです。渋柿を干し柿にして糖度を増して食したようで、税を干し柿で納めたことが758(宝字6)年の雑物収納帳などに載っているそうです。
が、万葉集には柿の歌は一首もありません。こんなに美しい実の色、葉の色なのに、なぜ歌われていないのか、残念です。
10月神無月 美味しい柿を食べながら〜〜