自分と向き合う技術

82年生まれ、キム・ジヨン〜と〜桜木紫乃さん〜上野千鶴子さん

「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジュ著 は、2016年秋韓国で出版され、130万部を超えるベストセラーになりました。日本では2018年冬に出版され(世界16カ国で翻訳されているそうです)、これまた多くの人々の共感を得ています。私が図書館で予約したのは今年の夏、その時138人待ちで、3ヶ月経った今もまだ順番が回って来ません。

2019年映画化され、これも大ヒットとなり、日本でもこの秋公開されました。ということで原作を読むより先に、映画を観ることになりました。

〜〜〜「身につまされる」との、先に観た友人の言、私もしみじみ同感です。韓国の1982年生まれの女性の生きにくさを描いているのですが、それは、世代を越えて日本でも全く同様で、「ああそうなのよ!!」と同感するところが満載です。

http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/

「世界が広いと信じていた子供時代、女性としての生きづらさを初めて知る少女時代、必死に勉強して入った大学から就職への壁。結婚・出産で会社を辞め、社会から切り離されていくような気持ちを抱える日々、そして再就職への困難な道――。女性なら誰もが感じたことがあるであろう場面を積み重ね、ジヨンの人生は描かれる。」映画のオフィシャルサイトにはこのように書かれています。

彼女の心は、自分では気づかないまま、分裂していきます。ある時は、母となって「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」と夫に忠告します。ある日は祖母になり「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」と母に言います。彼女の記憶はその時のことは抜け落ちているのです。

夫のデヒョンはそんな妻の異変に気づき、悩みます。そんな中でジヨンは再就職を試みるのですがうまくいきません。子どもを預かってくれる場所や人がいない、夫が育休を取るというと義母から大反対される、、、。追い詰められたジヨンはさらに混迷を深め、夫から告げれられ、自分の分裂に気づきます。夫や精神科医や職場仲間たちやきょうだいや父母との対話の中で彼女は自身の生きる道を探り、見つけていきます。

ジヨンの周りの人々はそれぞれに魅力的です。それぞれの立場で懸命に考え、生きています。しかし因襲に満ちた社会への囚われとは無縁ではありえません。これって私が生きて来た社会と同じだ〜〜と多くの人、特に女性たちは感じると思います。

監督のキム・ドヨンさんは次のように語っておられます。「『82年生まれ、キム・ジヨン』は私の家族、友人、そして私たちの物語だと思っている。どんな場所で生きてきて、生きていて、今後生きていかなければならないか、 そんな悩みを分かち合い、共感を得られることを望む。」

この映画を観た次の日、NHKの朝イチに、「ホテル・ローヤル」(これもまだ読んでいません・・これも映画化されました)https://www.phantom-film.com/hotelroyal/

で、直木賞を受賞した桜木紫乃さんが登場なさいました。そこで彼女が語った、彼女が小説を書き始めた時の様子〜〜まさしくこの映画と重なり合いました。「二人の子どもを持つ専業主婦だった私は、いい嫁、いい娘、いい妻であることをやめて書かざるを得なかった・・・」

桜木紫乃さんの夫もジヨンの夫デヒョン(演じている俳優コン・ユさんが素敵)と同様、とても素敵な人で、妻を大変愛し、理解し、尊重しておられます。しかし、それでも、「良い嫁、娘、妻」であることを求める社会の圧力は女性たちを強く抑圧するのです。

ちょうど、上野千鶴子さんの「〈おんな〉の思想(私たちはあなたを忘れない)」https://www.shueisha-int.co.jp/publish/%E3%80%88%E3%81%8A%E3%82%93%E3%81%AA%E3%80%89%E3%81%AE%E6%80%9D%E6%83%B3

と「上野先生フェミニズムについてゼロから教えてください」http://www.daiwashobo.co.jp/book/b482126.html

を読んでいたのですが、これらの本にあるように、時代を超えて、国を超えて、女性たちは抑圧され、そして闘ってきました。一見制度が整い、女性を大事にする世の中になったように見えますが、いやいやまだまだ「女」を都合よく使おうとする「男」たちからの抑圧にこの世は満ちています。

上野先生はおっしゃいます「フェミニストであることは女が女であることを愛し、受け入れる思想」。上野先生と対話した田房永子さんは最後にこう書いておられます。「上野さんとの対談を終わって思ったことは、社会に対して思っていること、不平不満、違和感とかをどんどん訴えていいってこと」。

そうなんです。自分の体内に、不満や不信や怒りや不安を、吸い込み溜め込んでいたら、ジヨンのように、自分が保てなくなり、心が分裂していきます。特に日本では言いたいことを言うと「空気が読めない」と言われ、問題児扱いされ、阻害されていくこともままあります(お隣の国の韓国も似ているところがあるのだと思います)。男だろうが女だろうが、私たちは一人一人思うこと考えること語ることをやめて生きていくわけにはいきません。魂を売るわけにはいかないのです。

映画の最後、子連れてショップに入り、もたもたするジヨンに悪口を言う男女に、ジヨンは「どうして私を傷つけるの?」と言い放ちます。映画の初め、子連れ専業主婦を揶揄する男女の声に黙ってその場から立ち去るジヨンでした。思ったことを言うようになったジヨン(チョン・ユミの凛々しい演技が素敵でした)は、もう他の人に憑依してもらう必要はなくなったのです。

「82年生まれ、キム・ジヨン」色々なことを考えさせられる佳い映画でした。本もきっと素晴らしいと思います。また、ここで紹介した他の本もぜひご一読ください。

2020・10・22

 

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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