社会をまなぶ

映画 日本原牛と人の大地

京都シネマで上映中の『日本原牛と人の大地』を観ました。

https://nihonbara-hidesan.com/

岡山県北部、人口6000人の奈義町、陸上自衛隊の日本原演習場があります。奈義町は自衛隊との共存共栄を町の方針にしています。昔から、地元の人が山に入って土地を共同利用する「入会地」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A5%E4%BC%9A%E5%9C%B0 )があり、演習場内の耕作権などが防衛省から認められています。いま、奈義町の入会地で耕作しているのは、この映画の主人公の、内藤秀之さん一家のみとなりました。

内藤秀之=ヒデさんは、50年前、岡山大学医学部生だったときに日本原への自衛隊演習場設置反対運動を通じて、地元の農家の早苗さんと知り合い、医者になるのをやめて婿入りして牛飼になります。早苗さんはインタビューの中で「沢山の人がここに来て、去っていった」と語っておられます。ヒデさんは50年間、演習場反対運動、入会権をめぐっての裁判、そして戦争法三法(特定秘密保護法・安全保障関連法・「共謀罪」法)に加えて「土地利用規制法」の問題と危険について考え運動を続けてこられました。

この映画の監督黒部俊介さんは、映画監督を目指していましたが諦め、書店員として働いていました。2011年の福島第一原発事故の影響を受けて、妻の黒部麻子さん(この映画のプロヂューサー)と岡山に移住します。精神障がいの方が地域で生活する支援を行う施設に就職し、多くのことを学んだと言います。 https://nihonbara-hidesan.com/interview/

しかし職場での人間関係が悪化し、退職、もう一度好きなこと=映画づくりをしようと思いつつ、食肉センターでアルバイトを始めます。そこでヒデさんという変わった牛飼がいることを知り、ヒデさんのところに通い、ヒデさんを通してその家族や周りの人々と知り合い・・・という中でこの映画が出来上がったのです。

家庭用のビデオカメラで撮影した映像を苦労して編集した秦岳志さんは「世代の違いや政治的立場の違いによる感覚のギャップの可笑しさや思ったようにいかない人生や活動からにじみ出る哀愁」(「ポスト・プロダクションノート」より)と語っておられますが、登場する人々それぞれが様々な思いや事情を背負い、くたびれながらも、暖かく繋がり合い、じんわりと繋がりが広がっていく様子が、映画を通じてこちらにもじんわりと伝わってきました。

圧倒的な知名度を誇る「中村哲」さんの映画を観て、圧倒された直後だったのですが、全く知らなかった「内藤秀之」さんが、「中村哲」さんと等身大に重なる思いがしました。また同じように重なる偉大な精神科医「山本昌知」さんが、画面に登場した時はびっくりしました。

観察映画「精神0」岡山県北区岩田町の精神科診療所「こらーる岡山」。所長の山本昌知医師(82歳)は、岡山県精神保健福祉センター所長を25年間務め、国内で3箇所目の社会復帰施設を作るなど、患者を地域で支える体制を構築した人です。山本医師の毎日に密着し、撮影されたこの映画は必見です!...

黒部監督にとって、「映画の撮影中は生きる気力が回復する時間だった」といいます。ヒデさんの次男の陽さんのへやに泊まり込み、家族同様に暮らす中で、内藤さん一家と黒部監督との間に流れた時間がお互いをあたためお互いを変えていったのではないでしょうか。引きこもり状態だった陽さんが自転車を買い、この映画のナレーションを見事につとめあげたこと。長男の大一さんが牛飼を継ぐ・・・困難な道だけれど、人々とのあたたかな繋がりのある道を選択する決意を固めていく様子。

ヒデさんが育てた牛の乳からできた低温殺菌の「山の牛乳」 https://matenrei.amebaownd.com/posts/6201620/ 

は、配達をパステル作業所が請負い精神障がいを患った人の自立に一役買っていました。奈義町の町興しにも一役買っていた人気の牛乳でしたが、残念ながら、工場を続けることが難しくなり生産中止となりました。

自衛隊演習場における、入会の権利もいつ取り上げられるかわからない現状があります。

ヒデさんは急性白血病を患いました。早苗さんの体も思うようには動かないです。大一さん、陽さんが、二人の気持ちを継ぎ、また若い人々も運動に参加しています。「戦争」が人ごとでなくなった、昨今の出来事の中で、防衛費を増やすことを大前提に政治は動いています。防衛費を増やすことではなく、もっと人々が幸せになるところにお金を配分して、国を良くしていくことはできないのか?その疑問をもつ人々の繋がりこそが楔となり、国を変えていくことになるのでしょう。

この映画を観て本当に良かった、と強く強く思いました。

監督・撮影:黒部俊介  整音:川上拓也  編集:秦岳志  制作:黒部麻子
ナレーション:内藤陽  製作:黒ベこ企画室  配給:東風
2022年制作/110分/日本映画/ドキュメンタリー

2022年10月15日(金)

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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