社会をまなぶ

本)検証 大阪維新の会ー財政ポピュリズムの正体

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2010年大阪府知事橋下徹は、財政再建計画にあった私学学校への授業料軽減助成削減の方針を覆し、大幅増額し、大阪府職員給与削減分をそれにあてました。財政再建計画にあった270億円の職員給与削減案が知事提案として350億円までに増額されたのでした。

2010年大阪府知事橋下徹と大阪府府議会議員松井一郎が、府議会の自民党会派の一部とともに立ち上げた地方政党が『大阪維新の会』です。

2011年大阪府知事、大阪市長ダブル選挙の結果、大阪維新の会の首長が誕生しました。

二重行政の解消を目的に、「大阪都構想」を掲げ、2015年・2020年の2度の住民投票を行い、否決されました。

現在は、2025年の大阪万博への強引な取り組みが話題になっています。そして、維新の会は、特に「教育費の無償化、所得制限の撤廃」を強調する一方で、「身を切る改革」というスローガンのもと、公共サービスの膨張には否定的な政策をとっています。

この本では、特に維新の会の政策の財政分析に主眼を置いています。大阪維新の会の主張する、「既得権益層への予算配分を解体し、多数の人に頭割りで分配する」という姿勢を「財政ポピュリズム」と呼んで、検証しています。

一見、多くの人の要望の充足に合理的に作用する「財政ポピュリズム」により、維新の会は、選挙戦を有利に戦いました。しかし、「財政とはそもそも、個人の利益を超えて集団の必要を満たすために存在するのであり、集団で共有できる価値観に基づいて運営されるべきもの」だ、と筆者吉兼憲介さんは述べています。

以下長くなりますが、なるほど、と思った箇所を抜き出します。

「政党は、この価値観を共有するための装置だといえるが、維新の会は集団の価値観でなく、個人の利益に訴えかけることで力を蓄えてきた。つまり維新の会は政党による価値共有の機能を否定する戦略によって強力な支持を得ているといえる。一方、政党本来の役割である価値の共有による財政については、必ずしも十分な支持を得ていないのである。この矛盾こそ、維新の会が選挙においては極めて強力な支持を得る反面で、都構想や万博といった巨大な価値を実現する局面で必ずしも支持を調達できていないという現象を説明する、導きの糸なのである。」

吉兼さんは、この本で、「財政ポピュリズムは、集団の経済行為から人々の関心や意思決定の機会が失われる中で起こった、極めて今日的な現象なのだ」ということを明らかにし、維新の会の政策を分析検証することでその実像を明らかにしています。

2019年4月の統一地方選挙では、大阪維新の会から「大阪の成長を止めるな」というスローガンが繰り返し出されました。大阪の成長へ、維新の会が出した挙証は、大阪府への外国人旅行者の増加、と、税収の増加でした。しかし、吉兼さんの分析によると、税収入、一人当たり所得、一人当たり雇用者報酬も、全て横ばいでした。観光業や商業地の公示地価という指標からは成長が認められるけれど、府全体の底上げに結びついていないのです。

維新の会における「身を切る改革」「財政ポピュリズム」が、個人にとって魅力的に映り、「コスパがいい」配分だと支持されたとしても、それは財政の本質的な否定となり、財政の解体は社会を貧しくしていくのです。一見遠回りに見えても、共有される大きな価値を時間をかけて作り直すことが、「真の成長」に結びつく、と吉兼さんはこの本をまとめています。

2024年8月暑い暑い夏にこの本を読みました。なるほど、と思いましたが、まとめるのがとても難しくて、そのままになっていました。しかし、9月になって、「新自由主義と教育改革 大阪から問う」(髙田一宏著)を読み、大阪で行われている、さまざまな改革の問題点を改めて強く実感しました。にもかかわらず、なぜ「大阪維新の会」が支持されるのか?

コロナ対策において、死亡者数を鑑みれば、大阪府の2023年5月までの新型コロナウィルス罹患に伴う死亡者の累積数は大阪府が最下位でした。オール大阪でのワクチン開発に75億円を投じたにもかかわらず、成果を得ることなく終了しました。にもかかわらず、なぜ「大阪維新の会」が支持されるのか?

ということを考えるためにもう一度この本を読む必要があるな、と思いました。今、2024年10月、大阪維新の会が選挙で勝てない現象が少しずつ広まってきています。何かが変わってきているのかもしれません。

本の内容をうまくまとめられたかと聞かれると、全く・・・と思っています。しかし、著者の吉兼さんが繰り返し語っている、「経済における人間性の回復のために、共同の利益を共同の負担で実現する必要性」「マジョリティだけのための経済対策ではない人間社会全体の豊かさのために必要不可欠な負担」が重要である、という視点は常に持っておきたいと思います。

2024年10月5日

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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