『世の中ごごち』伝染病や疫病などの流行病を表す言葉、『ひたやごもり』じっと家にいる、という意味の言葉。
人は昔から流行病と闘ってきたのですね。
5月16日から始まった、NHK古典講読「王朝日記の世界〜更級日記〜元電気通信大教授 島内景二さん」を楽しみに聞いていたのですがコロナ禍による緊急事態宣言の影響で、5月9日放送を最後に中断していました。その間に古典を読みふけった島内先生が出会った言葉が上の言葉です。
いつの時代にも病と闘ってきた人の世。更級日記の作者も1,021年天然痘の大流行で大切な乳母や友達を失い、すっかり塞ぎ込み、心ががっくり折れてしまいます。娘を立ち直らせようと母は八方手を尽くして物語を手に入れ、娘に渡します。彼女は物語を読んで元気を取り戻します。
「紫のゆかり」=「若紫の巻」を読んで続きを読みたいと強く強く願う14歳の作者と久々にあった叔母は「もうあなたも大人の物語を読む年頃になったわね。あなたには実用的なものはいらないわね、愛と夢が詰まった素敵なものがいいわね」とたくさんの物語と共に、「源氏の五十余巻」をプレゼントするのです。
作者は夢中になって一日中源氏物語を読み耽ります。「人もまじらず几帳のうちに打ち伏して」読み続ける幸福は「きさきの位も何にかはせん」(天皇の妃になることだって大したことではない)。彼女は暗記するほど源氏物語を読み込んでいきます。「我ながら大したもの」と思う彼女の夢に、僧が登場して「源氏物語ではお前は幸福を得られない、道を教える法華経五の巻を読みなさい」と言います。彼女はそんな夢は意に介さず、「今はブサイクな私だけど、きっともっと綺麗になって魅力的な夕顔や浮舟のようになるわ。」と思うのです。
物語に夢中になる女の子の姿が生き生きと浮かび上がってきます。
皆さんは10代半ばの頃、何に夢中になっていたでしょうか。さまざまな出来事や物語や音楽や風景に自分を重ね合わせ、たくさんの夢をみるのが10代半ばの若者たちの自然ですね。
島内先生は語ります。「『人間にとって何が宝なのか、文学と宗教、哲学は両立するのかしないのか』という問題を作者はこれから考え続けることになるのです。」
また島内先生は、女性を、「男性との恋愛生活の中に自分が生きた証を見つけようとする女性たち」と「社会的地位や経済的繁栄の獲得に生きる意味を求める女性たち」にわけ、作者が前者の夕顔や浮舟にひかれつつも、後者の生き方をした自分と同じ受領階級の明石の一族に親近感を持っていたように感じられると、おっしゃいます。
そして、彼女の見る夢について先生の語りは続きます。
夢の中である人が作者に噂話をし、最後に「天照大御神を信じなさいませ」と作者を諭すのです。物語と神仏が異なる人生を作者に指し示しているこの時期から彼女がどのような人生歩んでいくのか、物語への熱い想いが吉と出るのか凶と出るのか・・・
島内先生の名案内、次の回が楽しみです。
彼女のみた「夢」について改めて考えてみたい、と個人的には思いました。
この古典購読「王朝日記の世界」はNHKらじるらじる https://www.nhk.or.jp/radio/
で7月上旬までいつでも聞くことができます。ぜひ、島内先生の素敵な語りで「更級日記」の世界を味わってみてください。今も昔も変わらない、人の優しい心もち、生活に触れることができます。
(更級日記を再読して私が今つくづく感じることは、作者の周りの大人たちが作者を大切に慈しみ育てようとしていることです。高校時代に読んだときはそういうことにはさっぱり興味を持たず、物語に夢中になる作者の心持ちに共感したものでした。)
2020・水無月・20