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本 ステフィとネッリの物語

第二次世界大戦が始まる直前、スェーデンはドイツとオーストリアからユダヤ人の子どもを500人だけ受け入れました。スェーデン政府の救援委員会が、里親を募り、それぞれの家庭で面倒を守ることになっていたのです。

この時の500人のうちの2人の姪である、アニカ・トール(1950〜)は、この史実を綿密に調べ、「ステフィ(12歳)とネッリ(7歳)」という姉妹を主人公にした物語「海の島」を仕上げ、出版されるとたちまち大きな反響を呼び起こしました。その後「睡蓮の池」「海の深み」「大海の光」の四部作が完成、作者自らの脚本でテレビドラマにもなったそうです。

1939年オーストラリアのウィーンからスウェーデン西海岸のイェーテボリ(フィギュアスケートの世界選手権が開かれた場所として私の記憶には残っています)の中央駅に主人公の二人の少女を乗せた列車が到着します。ユダヤ人迫害が日に日に激しさを増す中、両親は娘たちの身の安全を願い、二人を北の国へ送り出したのでした。ステフィとネッリの両親は自分たちに米国行きの査証が降りたら娘たちと合流してヨーロッパを離れるつもりでした。せいぜい半年の我慢と、娘たちは親元を離れたのです。イェーテボリの小さな島で別々の家に引き取られた二人。姉のステフィ12歳はなかなか周りに馴染めません。妹のネッリ7歳は新しい環境に順応し、母国語であるドイツ語を忘れかけ両親のことも気にかけなくなって行きます。ステフィはそんな妹に対して苛立ちを覚えます。

1940年ドイツはデンマークとノルウェーに侵攻し、戦争の影響は中立を宣言したスウェーデンの小さな島にも影を落とします。ステフィは優秀な成績で小学校を卒業し医師になりたいと願いますがかないません。そんなある日、ステフィは差別的な言葉を投げつけた少年を殴ってしまいます。その少年の両親に対し養母メルタ(それまでは厳しくステフィに接していた)は「だれにも、うちの娘に対して、そういう悪口は言わせませんよ。どんなにりっぱな人にもね。ですからステフィが謝ることはないですね。ズボンのお金は支払いますよ。」

ステフィは、その聡明さを知った人から援助を申し出られ、8月からイェーテボリの女子中学に通えることになりました。戦局と両親の安否を気にかけつつ、自分は「けして一人ではない」と水平線を眺めながら思いを馳せます。

二作目「睡蓮の池」ではステフィが新しい師、友と出会う一方、ドイツ贔屓の教師や同じユダヤ人の友人から悪意ある仕打ちを受けます。また恋の苦しみも経験します。

三作目「海の深み」では姉と妹の心の溝が広がって行き、またチェコスロバキアの強制収容所から母の死を知らせる父からの葉書が届きます。

四作目「大海の光」ではようやく終戦を迎えた中、二人の姉妹は、スウェーデンに残るか、ウィーンに帰るか、親戚を頼って米国に渡るか新たな決断を迫られます。両親の記憶も薄れ、ドイツ語も理解できず、気持ちの上ではすっかりスェーデン人になっていたネッリは「なにもかも複雑すぎる。どうしてもっと単純に生きることができないんだろう」と、苦しみます。

二人の姉妹の6年間の成長を描いた四部作は、菱木晃子さんという名訳者を得て、新宿書房から刊行されています。https://honto.jp/netstore/pd-book_03099583.html

中古品も安く手に入ります。https://www.amazon.co.jp/%E6%B5%B7%E3%81%AE%E5%B3%B6%E2%80%95%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%95%E3%82%A3%E3%81%A8%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%AA%E3%81%AE%E7%89%A9%E8%AA%9E-%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%AB-%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/4880083542

2017年、菱木晃子さんの「大人が味わうスェーデン児童文学 つい忘れがちな大切なこと 9つの物語に学ぶ (自分がだれなのかは、自分で見つけなければいけない)」をラジオで聞き(カルチャーラジオ文学の世界)、この物語と出会いました。

綺麗事ではすまない現実の厳しさが、特に戦争という厳しい状況の下では容赦無く襲ってきます。そんな中でそれぞれに葛藤しながら生きていく人々。その中で二人の少女は成長し、自分の道を選んでいきます。素晴らしい物語です。

スウェーデンという国について多くは知りませんが、菱木さんのブログなどから教えてもらっています。https://hishiki.info/profile.html

またスェーデン大使館のツィッターも大変興味深いです。https://twitter.com/EmbSweTokyo?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

2022年1月31日(月)

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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