ホモ・サピエンスは一種類、人類は一種類しかいない。これは他の種には見られない状況だそうです。ホモ・サピエンスの他に多くの人類は存在しましたが皆絶滅してしまったのです。今、絶滅人類について、そして私たちの実像について、予想外の発見が次々と起きているといいます。
ゲストのヤマザキマリさん「ホモ・サピエンスが特化して強かったから生き残った、という定説を覆すと聞いてこの番組に絶対出ます」と言ったそうです。
私たちの進化は猿人→原人→旧人→新人(ホモ・サピエンス)と一本の線として説明されることが多かったのですが、今では全く違う考え方になっているそうです。
七百万年の間に20種類以上の多様な人類が生まれ、今私たちホモ・サピエンスだけが生き残っているということが見えてきたのだそうです。ホモ・サピエンスの歴史はおよそ30万年。その傍に他の人類がいたのだけれど、悉く絶滅し、ホモ・サピエンスのみが生き残った。植物・動物たちは多様化して広がるのに、人類は一種類しかいないのに世界中に広がっているのです。なぜなんだろう。
南アフリカフロボンス遺跡から発見された7万年以上前の、ラテン語でホモ・サピエンス(=賢い人)。赤い顔料、小さな穴が空いた貝(装身具)などの発見はホモ・サピエンス独自の文化の始まりを示すものです。その後ホモ・サピエンスは世界各地で文明を築き繁栄しました。
ホモ・サピエンスが世界に広がった時、ほかの人類が生き残っていたのに絶滅したのは、ホモ・サピエンスの殺戮の力が原因だったということもできます(人類学者スバンテ・テーポさん)。30万年前、ユーラシア大陸の各地には旧人(ネアンデルタール人など)、原人(ジャワ原人など)がいたが、アフリカで生まれたホモ・サピエンスがおよそ5万年前にアフリカを出たのち、それらの先輩人類は全て絶滅し、多様性が失われホモ・サピエンスのみとなった、というのです。それはホモ・サピエンスが関与したとしか考えられないのです。
一方で、スタジオゲストの海部陽介さんは、ホモ・サピエンスが殺戮から他の先輩人類が絶滅したわけではなく、ホモ・サピエンスの行った資源の独占が他の先輩人類を絶滅させた可能性を示唆します。
例えば、オオツノジカやマンモスなどの大型動物の多くは、ホモ・サピエンスの進出後次々と絶滅しているのです。それは他の人類の絶滅と時期を同じくし、その後、ホモ・サピエンスがアメリカ大陸に移るとそこで同様のこと(様々な大型動物の絶滅)が起きているのです。つまりホモ・サピエンスが食糧を独占し、ほかの生物を絶滅させた可能性があるのです。ホモ・サピエンスは「賢い人」でもあるが、一方で「他の生物の生存を脅かす欲ばりな人」でもあるのです。ホモ・サピエンスは、肉も取り、魚も取り、と狩が上手くなり、他の人類の食べ物を奪ってしまった(意図せずに)可能性が高いのです。海部さんは「私たちは必要以上にものを取る。技術を持ったことで欲張りな浪費型ヒトになり、戦わずして、意図せずに、進化の方向だけに進まなかった可能性が高いのです」と語ります。
織田さんは「狩をするのが『面白い』という感覚が古代人にもあったのか」と自らを振り返って妄想します。ヤマサキマリさんは「『知性の貪欲=知性がもたらすエクスタシー=業』があるからこそ私たち漫画家という職業が成り立つ」と妄想します。過剰に浪費を求めるホモ・サピエンス。業だらけのホモ・サピエンス。
そこで沸く疑問は「ホモ・サピエンスは本当に賢いヒトのか?」。ホモ・サピエンスの本性が過剰な浪費型ヒトならば、持続可能型な生き方は可能なのか?「ホモ・サピエンスの浪費は古代からずっと変わらない」とヤマサキさん。「良い悪い、道徳的というのも、人間の考え方で、現状を憂えるとか楽観的になるというより、僕は自分たちのルーツを知りたい。それがわかると自信を持って指針を持てるのではないか」と海部さん。
私たちはなぜ浪費型人類となってしまったのか?馬場悠男さんは、ポイントは複数の人類が存在した200万年前にあると言います。食料が簡単に手に入らなかった地球の乾燥化の時代、人類は戦略を練ります。馬場さんは、パラントロポス・ボイセイとホモ・ハピリスの戦略を比較してみます。
乾燥が進み豊かな緑が失われたアフリカでパラントロプス・ボイセイ=頑丈型猿人は、硬いものをしっかり食べる戦略を用いて側頭筋を発達させるという戦略をとりました。ヤムイモやタイガーナッツという根茎類を食べるためにあごや歯を頑丈に進化させたのです。現代人の噛む力の平均は37キロ。これでは生のヤムイモを噛み砕くことはできません。ヤムイモは60キロでようやく形が少し崩れる程度の硬さ。根茎類昆虫などを食べていた彼らの歯は大きく発達し生き残りましたが、脳は50ccでした。生き残りはしましたが、猿人の脳の容量は700万年から200万年までほぼ変わらなかったのですが、絶滅することになります。
ホモ・ハビリスは、石器を利用して、ほかの動物の食べ残しや骨を割り骨髄を食べることで、飢えをしのいでいたと考えられています。石器によって偶然もたらされた肉食によって脳が増大したホモ・ハビリス。その脳は600cc以上。歯と顎、顔面の面積が小さくなって脳の容量が増えたのです。ホモ属の脳は200万年前から急激に大きくなっていくのです。道具を使い、動物を意図的に殺すことでホモ・ハビリスは生き残り、ホモ・エレクトスに進化します。その後火を使い始めたホモ・エレクトスはより多くの食べ物を食べる=スーパー雑食動物となる、ことで、脳を大きくし、過剰な欲望も増大させていき、ホモ・サピエンス=浪費型人類となっていき生き残るのです。
海部さんは、ホモ・サピエンスになって明らかに変わることは「探検」が始まることだといいます。越えなくてもいい海を越えるとか、生きることが大変な極寒の場所にまでいくのです。3万年前日本列島にやってきた人類の跡を試し、台湾から与那国島への海を渡ってみた海部さんは、「『これもっとできるぞ』という気持ちが起きてしまう」と言います。「もっとできる=自己顕示欲=生まれてきて良し=何のために生きてきたか=爪痕を残したい。」という気持ち。ヤマサキさんは「サピエンスは精神性を持つことで、死への恐怖がうまれ、それが自己顕示欲を生む」と妄想します。
一方で「滅んだはずの絶滅人類はいまも生きている」のだそうです。ホモ・サピエンスと同等の脳や体を持っていたネアンデルタール人はヨーロッパを中心に生活していましたが、4万年前に絶滅しました。5万年前にアフリカを出た、ホモ・サピエンスが、病気をもたらした、とも、暴力的に追いやった、という考え方もありますが、ネアンデルタール人は社会ネットワークの形成に至らず絶滅に至った、という考えかたもあります。
2010年スヴァンテ・ペーボ(ドイツ)さんは、ネアンデルタール人のDNA復元に成功し、それと現代人の遺伝子の変異を比較し、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交配していたことが明らかになりました。ホモ・サピエンスは小さな集団でアフリカを出て、ネアンデルタール人と交配して両者の遺伝子を持った子孫が世界中に広がったのです。一方アフリカに残ったホモ・サピエンスはネアンデルタール人の遺伝子を全く受け継いでいないことがわかっています。交配したことで、ホモ・サピエンスには、例えば流産のリスクが減るなどの恩恵(ネアンデルタール人のPGR遺伝子による)がもたらされたのだというのです。
ネアンデルタール人は脳が発達していました。ネアンデルタール人が持っていた良い遺伝子がホモ・サピエンスを強くしたのですが、ネアンデルタール人自身は社会ネットワークを構築する力がなく、そこが交流を行うホモ・サピエンスとの大きな違いで、ネアンデルタール人を絶滅に追いやったと考えられるのです。
絶滅人類の中で一番ユニークな存在として、海部さんは、頭も小さい、脳も小さい人類をあげます。インドネシアのフローレス島で発掘されたホモ・フロレシェンスは脳が約ホモ・サピエンスの3分の1。しかし発掘現場から見つかった石器や大量の動物の骨から彼らにはかなり知性があったと考えられる。彼らはジャワ原人(身長165センチ、脳の容量800cc)が海を渡り、島に渡り、どんどん小型化する(身長100センチ、脳の容量426cc)けれど生きながらえます。一度獲得された能力は消えることがなかったのです。脳の大きさが大事なのではなく、神経のネットワークが大事なのだという視点が示唆されますが、まだわからない部分がたくさんあるそうです。5万年前に絶滅した小さなホモ・フロレシェンスは、現代の私たちに大きな問題を提起しています。
「ペットだって小型化している、だから人間だって生き残るために小型化する作戦もありかも」と妄想が膨らみます。「ホモ・サピエンスは絶滅するのか?」。「しない」と思いたいけれど、環境さえ変えてしまうホモ・サピエンスの力のツケをどう解消するか、自分たちのやってきたことにどう責任を取るのか、という議論・・・なるようにしかならない・・・。
井上あさひアナウンサーが体の神秘に耳を傾けるおやすみに入る前の回となった「絶滅人類」の回、とても面白かったです。
2022・7・1(金)私も外での仕事を一旦お休みします。そして人の体の神秘に耳を傾けます。