社会をまなぶ

はだしのゲン削除(クローズアップ現代)

2023年度広島の教育現場で平和教育の教材から「はだしのゲン」が削除されました。このニュースには私も大きな衝撃を受けました。2022年に作家の中沢啓治さん(小学2年生で被曝)が亡くなられ、すぐの出来事です。

(広島市の小学校、中学校、高校では、2013年度に平和教育プログラムがはじまり、それぞれの学年に応じて作られた教材を使用しています。『はだしのゲン』は小学3年生の教材に6ページに渡って掲載されています。関連文書では、削除の理由として《漫画の一部を教材としているため、被爆の実相に迫りにくい》、《ゲンの気持ちを考えることに留まり、教材を通して、自分が平和について考えたことを伝える学習となっていない》などを挙げています。さらに、中学3年生の教材にあった「第五福竜丸」の記述がなくなることも分かりました。・・・Diarogue for People より https://d4p.world/news/20370/    )

Diarogue for People で歴史家の高橋さんが詳しくその問題点をあげておられ、G7サミットへの「忖度」で広島の原爆被害や第五福竜丸の被曝被害をできるだけ小さく表現したい、という意図を検証(難しいけれど)する必要性をあげておられました。

8月2日「クローズアップ現代」ではその経緯を調査報告していました。👏

削除の理由・・・例えばゲンが浪曲を歌って家計を助けるシーンについて「浪曲は現代の児童の生活実態に合わない」・・・身重の母のために池の鯉を盗むシーンについて「誤解を与える恐れがあり補足説明が必要となるため教材として扱うことが難しい」・・・

アホらしいと思いませんか?歌を歌って家計を助ける子どもがいた、という歴史的事実を(今だっていますよね)子どもたちに伝えること、彼らが今「浪曲」は知らなくてもそういう歌があったことを子どもたちに伝えること、ってとても大事だと思います。また池の鯉を盗むことの是非について子どもたちが考えること、意見を交わすことだってとても大事なことだと思います。教材として扱うことが簡単な、(つまらない)図や表や説明は、結局思考停止を生むことになると、なぜ「教育委員会」の人たちはわからないのでしょうか?

また、教育委員会は、「現場の声に基づいて削除を決めた」という説明をしていましたが、詳細に経過を辿っていくと、その説明は「嘘」と言ってもよく、現場の先生方の60パーセント以上が「はだしのゲンは有効な教材だ」という意見だったということがわかりました。新平和教育教材についての会議の中でも現場の先生方から「はだしのゲン」見直しの声はあがっていませんでした。

その後、現場の先生を除いた会議の中で、会議の会長だった人の発言「どこからも批判されない方が良い」により、「はだしのゲン」が排除された可能性が高い、というのが番組の報告でした。この人物にNHKは取材を申し込みましたが、彼は「高齢だから記憶が曖昧」を理由に取材を断りました。

取材を拒否するような人が会長を務めること自体が大きな誤りなのではないでしょうか。

過去にも「はだしのゲン」を教育現場から排除しようという動きが保守系の人々を中心に起こっていました。例えば松江市。しかし現場の声を重視した結果、松江市においては「はだしのゲン」は削除されませんでした。日本会議などの保守系の人々からは、「天皇の戦争責任を問う「はだしのゲン」は適当でない」「ゲンの削除を求めた」という声が実際に上がっており、それは公表されています。

しかし、NHKの教育委員会への取材では「削除の圧力はありませんでした」「我々は、先生たちのご意見を大事に聞きながら新しい教材を作成しました」「実際にゲンがあることで批判を受けているという認識はない」「ゲンを使っていきたい、という声でなく、現場から課題があるという声を取り入れたのは、先生方が扱いやすい教材にするため」という言葉が繰り出されます。あくまでも「現場の声」という立ち位置です。

ずるいなと思います。

現場では「政治的な偏りがあってはならない、ということでの『圧力』を感じる」という声もあります。県の教育委員会は変更の過程を一切明らかにせず、実際のところどのような影響があったのかわかっていません。一連の動きの中で「どこからも批判されない方がいい」という言葉が象徴的だと考えられます。政治的な論争に児童生徒を巻き込まないという立場だといいます。

現場でのアンケートについて、「はだしのゲン」削除の方針に対して、どちらでも良い、意見する立場にない、という先生方が30%を超えたそうです。戦争を知らない世代がどんどん増え、平和教育が相対的に地位が低下している実態があります。また、忙しい教育現場の中では、標準化された教材をこなす方がリスクが下がる、ともいえるそうです。

沖縄では「疑問」を入り口に当時への関心を高めて行くというやり方を行っています。その疑問は教育現場で避けられがちな、旧日本軍の住民への態度などにも及びます。子どもたちには多様な考え方を提示して自分で考えることができるようにしていく、より賢くなっていくようにするのが教育の仕事、と先生は語ります。

そのような教育の現場には「現在の自衛隊と繋げないで」という声が届くそうですが、住民たちが批判精神をもって自衛隊と対峙することが、自衛隊が旧日本軍のようにならないことにつながるのではないでしょうか。

「このような悲劇を繰り返さないためにどうすればいい?」という先生からの問いに対して、子どもたちは自身で考えた言葉を発します。「すぐ怒らないこと」、「いろんな国と仲良くすること」、「いまの戦争をなくすこと」・・・。

広島においても、子どもたちが主体的に議論する教育が求められる、単に記憶の継承者で終わる教育は避けるべきだ、「はだしのゲン」は論争があるゆえに良い教材だ、と番組では語られました。

同感です。戦争を行うことによって利益を得る人々が、国の主導権を握っている実態がある中、そのような指導者のいいなりにならないこと、あくまで自分たちの生活を大切にする視点を持って主張する人でいられること、そのような「ひとり」を育てることこそが、教育の目的だと思います。

もう一度清水真砂子さんの本を読みたくなりました。

清水眞砂子さん〜あいまいさを引き受けて(日常を散策するⅢ)清水眞砂子さんの言葉にはいつも心を揺さぶられます。いま、ますます見落としがちな「あいまいさを引き受ける」=「ネガティブ・ケイパビリティ 」ということを再認識する一冊です。...

2023年8月2日(水)猛烈な暑さが続きます。「温暖化は嘘だ」と主張する人がそれでもまだいることが信じられません。冷房を使用しながら「これはまずいんじゃないか・・・」と思いつつ、冷房なしではやっていけないですね、

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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