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マイ・コイ 反逆の歌姫 (Eテレ・ドキュランドへようこそ)

マイ・コイ 〜〜 ベトナムの「レディー・ガガ」と呼ばれるシンガーソングライター。今夜のEテレ「ドキュランドへようこそ」は、表現の自由をめぐり政府と対立し、立ち向かう彼女が主人公でした。

(ドキュランドへようこそのHP)https://www.nhk.jp/p/docland/ts/KZGVPVRXZN/

(映画「マイ・コイと反逆者たち」予告編)https://www.youtube.com/watch?v=H1h-MUjp3cs

生まれながらにして音楽に囲まれて育った彼女の才能。音楽教師の父は、「友達がピアノを弾く彼女に爆竹を投げつけた時、その爆竹を手ではねのけてピアノを弾き続けた。その姿に彼女は凄いと思った」と言います。

ポップシンガーとしての才能を開花させた彼女、母国を美しいと思う歌「ベトナム」が大ヒットし、政府に気に入られ、政府の後押しで大スターになり、派手な化粧や衣装で「ベトナムのレディガガ」と呼ばれました。しかし、お金を沢山もっていたその頃、マイ・コイは、心の中に虚しさを抱えていました。

「女性は自分の思っていることを口にするべきだ」と彼女は思います。自分の歌いたいものを歌い出しました。「セルフィー・オーガズム」はリリースから一週間で30万回の再生。しかしすぐにベトナムの動画サイトから消えたのでした。政府の検閲に怒りを溜めていったマイ・コイは、国会議員の選挙に無所属で出ようと決意し、行動を開始し、注目を集めますが、彼女は候補者名簿から除外されます。怒りとともに、このことで共産党の選挙のプロセス全体がイカサマだと世界は知っただろう、と彼女は考えます。

オバマ大統領の訪越に合わせて、マイ・コイは「オバマに会いたい」とオバマに向け動画配信を行います。アメリカ大使館はベトナム市民社会活動家の人々を招き、オバマとの対談を行いました(安寧には進みません)。その場でマイ・コイはオバマ大統領に「変化を促す圧力をベトナム政府にかけてくれませんか」と頼みますが、オバマ大統領は「私も政府の意識を変えたいと思いますが、難しい事だ」と答え、インタビューでは「ベトナム政府を信頼する。その進む道はベトナム市民が決める事だ」と発言しました。

その後、マイ・コイは秘密警察に尾行され、行動を全て記録され、コンサートはキャンセルされ、一切のパフォーマンスを禁じられました。しかし彼女は困難に負けず声をあげ歌い続けていきます。この国の政府は見せしめのために市民活動家に襲いかかります。例えば、人権派ブロガー・アイン・チーは、子どもを学校に送った帰り道、秘密警察に襲われて血だらけになりました。歌手・ロック・ヴァンは政府が禁じた歌を歌ったので10年間収容所に拘束されました。

2017年2月「マイ・コイと反逆者たち」を結成、伝統的楽器奏者、ジャズプレーヤー、たちが、それぞれの家族から心配される中、音楽のためにコイの仲間になりました。彼女はフェイスブックを使って音楽を配信することにしました。そのために、極秘のシークレットライブを行った時は、何箇所かにカメラを設置して、万が一の時に備えました。

「独裁体制への恐怖はもう沢山、私たちは自由になりたいだけ、私たちは決してあきらめない♬」コイは歌います。警察が門に来ているとの情報の中、それでも皆演奏を続けた、警察はやって来た、皆に脅しをかけるため〜コイは有名人だからそれ以上のことはおこらないのです。でもバンドのメンバーの家族から「逮捕されるかもしれない」との声が上がります。コイと一緒に仕事をするのはベトナム人にとって大きな危険を伴うことなのです。

2017年11月、トランプ大統領は就任後初めてアジアを訪れます。その時、インターネットの自由を守るために、彼女は横断幕をかけようと目論んでいました。夫のベンはコイに「危険だ、やる価値がある?」というが、彼女は朝5時バイクでロンビエン橋に横断幕をかけましたが、5分後、警察が来るという知らせを受けて横断幕を川に落としたのです。しかし彼女は諦めません。トランプ大統領の車両からよく見える場所で横断幕「くそくらえトランプ」を掲げたのです。

その後コイの自宅は秘密警察に踏み込まれました。彼女の写真は世界中に報道され、ベトナムに言論の自由がないということが多くの人に知られました。一方で、バンドのメンバーのダクからは一緒にレコーディングをできない、と言われます。父からの反対にもう逆らえないと。「私には何もできない・・」と悩む彼女に、「君に出来ることは沢山ある、でも行き詰まっているならばしばらくやめてみな」と友は言います。ロック・ヴァンにアドバイスを求めに行くコイ。「やりたいことをするべきだ。それが正しければ君の名は永遠に残る」と励まされます。

アルバム「ディセント」レコーディング最終日、ダグは戻って来ました。「音楽をしにきた」と。皆の感情が一つになり、困難を乗り越えてアルバムを完成させました。若い世代にメッセージを与える、真実を物語っているアルバム。そう、音楽は若者文化にまっすぐに入っていくのです。だからこそ共産党は警戒しているのです。

アルバムのリリースを2日後に控えた日、コイは両親の家を久々に訪れた。「ああいう曲を書くということは、この先どんな逆風にも立ち向かう覚悟ができている」と父。「後悔することなく、幸せになってほしい。」と母。国外に向かおうとするコイは両親に別れを告げます。「私のために祈ってね」

専制国家の中で彼女は確実に多くの若者に大きな影響を及ぼしています。無事に出国できるかどうかの緊張の中、出国審査官はパスポートを見せた彼女に「音楽に国境はありませんね」と言葉をかけるのです。

ノルウェーの大手レコード会社からアルバムはリリースされ、その後も世界中で人権について語り続け、2018年、オスロにて “Human Rights Award”を受賞しました。しかしベトナムでは彼女の受賞のニュースは流されませんでした。

この番組は2019年アメリカで制作されたドキュメンタリー番組です。2020年11月NHKBSで放送されたのですでに御覧になった方も多いかと思います。

私は、ベトナムへは10年前に一度旅行したことがあります。ベトナム料理はとても美味しく、身体に優しく、街には日本人向けに丁寧な手仕事の服や鞄や小物などが安い値段で売られていました。ちょうどクリスマスの頃でサンタさんの衣装を着た幸せそうな子どもたちがたくさんいました。一方で一生懸命花などを売っている子どもたちもたくさんいました。ただ一回旅行しただけでは、その真の姿は見えなかったと思います。

今回の番組をみて「他人事ではない」と感じました。マイ・コイが闘っていたこの10年間、日本でも「表現の自由」が狭められていることは確かです。一見自由なこの国で、思ったことを口にした女性たち(もちろん女性だけとは限らないですよね)がどれほどバッシングを受けたか、その例を挙げると枚挙にいとまがありません。

また、外国人技能実習生制度を利用してベトナムからやってきた「実習生」たちへの、日本の酷い仕打ちの例も枚挙にいとまがありません。ベトナムよりも日本が優れているなんて少しも思えません。

だからこそ、同じ「人」としてマイ・コイの勇気に賛同の意を表し、彼女の勇気を分けてもらいたいと思います。

2021年4月16日(金)

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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