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映画)本)ある男

平野啓一郎さん原作の映画「ある男」を観ました。観終わった後の余韻が長く続く佳い映画でした。妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、の三人(言うまでもなく三人ともが素晴らしい演技!)を軸に、登場人物一人一人の人間像(どの俳優さんも素晴らしい)が立体的に浮かび上がる脚本・演技で、矛盾を抱えた社会のありようが声高にではなく登場人物の営みから炙り出されてくる映画でした。

多くの印象に残るシーンがあります。里枝と大佑の出会い、城戸弁護士と妻香織やその家族との会話、刑務所での城戸弁護士と小見浦憲夫とのやりとり、ボクシングのトレーニング中の大佑の苦悩、等など・・・特に里枝の息子悠人くんの、妹花ちゃんを思いやるセリフ、には涙が出ました。最後は呆気にとられた終わり方でした。呆気にとられたけれど違和感はなかった。

https://movies.shochiku.co.jp/a-man/

コロナ禍の中での撮影から2年後の日本での封切り(2022年11月)の前に、イタリアでの第79回ヴェネチア国際映画祭に招待されて上映されました。妻夫木さんが、海外の映画ファンについて「ベネチアは、最後観終わったあとに何人か笑っている方がいて、国境を越えるとこんなにも見え方も違うのかと感じたのが、面白かったです」と語っておられました。この映画を見終わった後に「笑う」のは確かに違うな、、、。

2018年に出版された原作は25万部のベストセラーだったそうですが、読んでいなかったので早速読みました。単行本の表紙、アントニー・ゴームリーさんの彫刻、の装丁が素晴らしいです。本を読んだ後、さらに長く余韻が続くことになりました。映画を観た時に少し物足りないと感じていた人間関係や心情がさらに深く掘り下げられたし、呆気に取られた映画の最後のシーンについて少し理解もしました。

映画では、仲野大河さんが演じた本物の「大佑」と、清野菜名さん演じたその元恋人の「美涼」の人物像や関係に少し違和感と物足りなさを感じた(演技云々ではなく脚本として。大佑自身に深い事情があっただろう・・)のが、原作を読み、なるほど、と腑に落ちました。映画は2時間という時間制約があるから仕方ないのかな。

とはいえ、映像の美しさ、ストーリーの組み立て、いずれも素晴らしい映画でどんな監督か気になりました。「蜜蜂と遠雷」を撮った石川慶監督と知って、なるほど、絵が似ているなあと思いました。ポーランドで映画の勉強をしたということも、その絵の特徴に影響しているのかもしれないです。石川監督と宇野維正さんとの対談も面白く読みました。https://moviewalker.jp/news/article/1111994/

平野啓一郎さんは、社会問題に対して積極的に発言しておられ、その発言にはうなづくことが多くあります。また「ある男」特設サイト https://k-hirano.com/a-man

も設けられています。『「ある男」で模索したのは人間的な〝優しさ〟』だという平野さんのメッセージが心に沁みます。

「戸籍」を巡る物語として東野圭吾さんの「片思い」がWOWOWで放映されていて面白く見ています。面白く、という表現は適切ではないな。自分が一体何者なのか、に向き合う切実な想いが描かれています。これも原作を読んでみたいです。

2022年2月12日(日) ここ数日あたたかい日が続き、公園の梅の花が一気に花開き良い香りを漂わせています。

追記〕 2023年3月10日 第46回日本アカデミー賞の、最優秀作品賞、最優秀監督賞(石川慶)、最優秀脚本賞(向井康介)、主演男優賞(妻夫木聡)、助演男優賞(窪田正孝)、助演女優賞(安藤サクラ)、最優秀録音賞(小川武)、最優秀編集賞(石川慶)、8部門受賞となりました。

また、小説「ある男」を巡っての、平野啓一郎さんと小川洋子さんの対談を面白く読みました。ぜひご一読を!https://bunshun.jp/articles/-/8955

さらに、映画「ある男」を巡っての、平野啓一郎さんと石川慶監督の対談も面白かったです。https://bunshun.jp/articles/-/58847?ref=article_link&logly&device=desktop

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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