中島京子さん著の「やさしい猫」。読みながら、なんども涙し、なんども恥ずかしくなり、なんども頭を抱えました。この物語は2020年5月7日〜2021年4月17日、読売新聞に連載され、2021年8月25日初版が発行されました。連載中から反響が続々とあった、と本の帯にありました。「ハラハラしています」「知らないって恐ろしい」「ラストがよかった」・・・同感です。
https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/08/005455.html
この物語の連載中、2021年3月、名古屋出入国在留管理局で収容中のウィシュマ・サンダマリさん33歳が亡くなりました。ウィシュマさんは2017年に留学生として来日、翌18年に学費を払えなくなり学校を退学。その後、在留期間の更新が不許可となり在留資格を失ったまま、滞在を続けていましたが、2020年8月、同居人からの暴力を警察に訴え出た後に強制退去処分となり、名古屋入管局に収容されていたのです。体調不良を訴えてから三ヶ月以上、脈のない状態で発見され、搬送先の病院で逝去が確認されたというのです。このような出来事は、初めてのことではなく、「また」起きた死亡事故だったのです。
ちょうど、入管法改正へ向けて政府が動き出しており、その案には日本弁護士連合会が反対を表明、また、国際社会からも批判を受けていた折の出来事でした。
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210514.html
この出来事は「また」闇に葬られることなく、多くの人の関心を集めました。
https://www.asahi.com/articles/ASPDS76C6PDQUZOB00F.html?iref=pc_rellink_01
そして今年(2022)に入り、政府・与党は、昨年の通常国会で成立しなかった出入国管理法(入管法)の改正案について、1月17日召集の通常国会に再提出しない方向を決めたということです。
酷い出来事が知らないところで起きている。長い間様々な外国の人たちが様々な思いを持って日本にやって来て、人手不足を補う働きをしているのにもかかわらず、日本を愛しているのにもかかわらず、「移民」を認めない、という方針により、まるで存在しないかのような扱い、人間でないかのような扱いを受けている。・・・ 『そもそも、人の自由を奪う収容の判断が、司法機関ではない入管職員の裁量で行われてしまう矛盾。「こんなことが自分の国で起きていたことに衝撃を受けた」。書かない選択肢はなかった。(読書好日より)』中島京子さんは、多くの人、資料に当たり、物語を紡ぎました。
スリランカ出身の外国人だった、というだけで、ミユキさんとの幸せな結婚を願ったクマさんは、突然収容されました。ミユキさんの子ども、マヤちゃんは、ミユキさんと共にクマさんとの幸せを潰されまい、と頑張ります。
マヤちゃんの語る物語の中に登場する二人のマヤちゃんの友達、ハヤトとナオキは、異彩を放ち魅力的です。ハヤトを巡る物語にナオキは「たまたま日本に生まれて日本で育ったせいで、未来を閉ざされる同い年の子たちがいるなんて、日本、どうなってんだよ!なんというか、日本人としてプライドが傷つくなあ」と憤ります。
苛烈な現実があり、しかしその中で多くの人が、それぞれの個性を認め合い生かし合って手を携えて生きていく。その中で沢山の珠玉の言葉が生まれ、重なりあう。
この物語を読んでよかったと思いました。でも、よかった、と思っているだけではダメだな。
2022年2月24日(木)