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本の本 物語の海を泳いで〜角田光代

「空中庭園」「対岸の彼女」「八月の蝉」「ツリーハウス」「私の中の彼女」などで強烈な存在感を示した角田光代さん。ざらりとした読後感、心をえぐられるような痛切なストーリーで、直木賞、河合隼雄文学賞など数多く受賞、押しも押されぬ人気作家。

そんな彼女の「物語の海を泳いで」を読みました。2007年から2018年までに彼女が書いた書評をまとめた本です。まず冒頭の「真に出会うとーアストレッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』2017・10」で心をぎゅっと掴まれました。「この子の独自の信念、破天荒さ、独立心、独りよがり、野蛮さ、ぜんぶひっくるめて、だれよりもこの子と仲良くなりたい、この子のようになりたい、と幼き日に私は願ったのではないか。」という言葉に強く共感しました。私たちが読んだのは岩波書店版です。https://www.iwanami.co.jp/book/b372712.html

徳間書店から新訳が出ています。小さい時からピッピに親しむにはこちらもオススメ。https://www.iwanami.co.jp/book/b372712.html

角田さんは書きます。大人になってもう一度出会うピッピは、「昔は感じなかったかなしさをまとっていた。そのかなしさは、この子がずっとこのままである予感による。」「ピッピは大人にならない。成長しない。よしんばピッピが大人になってもピッピ的な部分は失われることなく、それは決してピュアな美点ではなくて、大人の彼女はその部分によって苦労する。だって私がそうだもの。大人になった私がピッピに感じるかなしみは「ピッピ的部分」にずっと苦労し、今なお苦戦している私自身へのあわれみなんだと思う。」

そう、角田さんはピッピ的な部分を持ったがゆえに苦戦しています。でもそれが故にやりたいことをやり抜き、「『世界一力持ちの女の子』の一人」となり得たのだと思います。ピッピ的な部分に苦労しつつ、矯正する方に強い力が働いた末に、せっかくの力を発揮できなくなってしまった女の子は山のようにいるでしょう。ピッピの持つ「かなしみ」を持ち続ける力、この世で「自分」を失わずに暮らしていくには必須のものだと感じます。

さて、「物語の海を泳いで」〜〜〜角田さんの目を通して多くの本、なんと350冊、の中を泳ぐと〜〜〜まずいです。図書館に予約予定の本がどんどんと積み上がっていきます。読みたい本がたくさん!例えば、赤松利市『ボダ子』・伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』・山田太一『空也上人がいた』・・・そして、2011年の震災をきっかけに吹き出したたくさんの問題を描いているという桐野夏生『バラカ』・・・と予約を積んでいた夜、10年を経ての余震だという地震が福島沖を震源として起こりました。遠く離れた大阪の我が家もほんの少しですが揺れました。地は揺れているのだ、南海トラフ地震もいつか来るんだ、と改めて感じつつ、今回の余震の被害が少ないことを切に願いました。

ものすごく沢山の本のなかの何を読むか、ものすごく沢山の人々の中の誰と出会うか、もうそんなに数はこなせないから、これからの「縁」「奇跡」の質を楽しみにしていこう!とあとがきを読みながら思いました。

2021・2・13(土) 12日旧正月の日、やっと五輪組織委員会も刷新される(かもしれない)兆し。角田さんいうところの「知性とは何か、想像力とは何か、偏見とは何か、首根っこをつかまれてそれらと向き合わされるような読書」=姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』を、「一緒に読みましょうよ!」と二人の爺様を誘いたいです。

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たつこ
たつこ
今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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