自分と向き合う技術

本・株式会社ウチらめっちゃ細かいんで(引きこもり×在宅×IT=可能性∞)

「ひきこもり者は、決して特殊な人たちじゃない」と始まるこの本は、日本初ひきこもり当事者・経験者主体の株式会社「ウチらめちゃ細かいんで」設立三年後に出版された本です。

http://www.asa21.com/book/b531831.html

https://mechakoma.com/

日本という国は、家庭でも会社でも地域でも、基本的に「普通であること」が良しとされる傾向があるので、「凸凹」が大きかったり、ずれていたりすると、とても生きにくい・・。しかし逆に言えばこの「凸凹」をうまく活かせる場と理解する人があれば、能力を発揮することができる・・。そして①そういう場は全国各地にいろいろあるし、②「めちゃ細」的会社を作ることは決して難しいことではない、の二点が、筆者の佐藤啓さんの伝えたいこと。

IT技術の進展とともに、ITエンジニアは不足している、経済産業省の調査では2030年には約79万人が不足する、と予測されているそうです。ITビジネス系教育事業を行う会社の社長である佐藤啓さんは、ひきこもりの人にプログラミングスキルを教えることで、会社での採用や仕事につなげることができるのではないかと仮説を立て、行動を始めました。「ひきこもり界隈」について斎藤環Dr.や池上正樹さんの本を読んで学び、2017年4月、池上さんの本にあったイベント「ひきこもりフューチャーセッションIORI」に参加、細野さんと出会います。また、IORIのミーティングで紹介された「NPO法人楽の会リーラ」の居場所や、定例会での活動を通じて『ひきこもり新聞』の制作を手伝っている小田さんや、高垣さん、村瀬さんたちと出会います。

彼らと出会い、議論を進めるうちに、2017年7月には、ひきこもり当事者・経験者が在宅で仕事をし、収入を得るというモデルをスタートする目処が立ったそうです。(すごいスピードですね!)HPを細野さん・小田さんが有償で制作し、「在宅で学習可能な『仕事保証付き』ホームページ制作・プログラミング講座=ひきこもりサポート特別コース」を7月30日にスタートさせたのでした。

https://www.progra-master.com/hk/

記念すべき第一号のお客様は、PCの中でではなく、信頼できる知人からの紹介を通して登場しました。(物事を選択する上で重要なポイントとなるのは「信頼できる人からの情報」なのですね。)

お客様へのサービスの良否を決めるのはマニュアルの完成度や使いやすさ・HPの見やすさです。細野さんの作ったマニュアル・小田さんの作ったHPは「めちゃくちゃ細かく」て素晴らしいものでした。

こうして始まった「ひきこもりサポート特別コース」に、「興味はあるけれど、適性があるのかどうかわからない」という声が多く寄せられますが、プログラマーの適性を確認するテストはいろいろありますが有料で気軽に受けることが出来なかったのです。そこでまたまた細野さん小田さんが大活躍。15分程度でできるテストを作ってしまったのでした。

https://www.progra-master.com/hk/aptitude_step1.php

2017年12月、「日本で初めてのひきこもり者主体の株式会社、ウチらめっちゃ細かいんで」設立記者会見が開かれ、会社はスタートしました。

会社「めちゃコマ」は一見順調に成長していました。しかし半年後創業メンバー11人中7人が退職するという事態に陥ります。細野さんや小田さんも退職しました。売上や利益のマネジメントと、人的な面でのマネジメントは、会社運営に置ける両輪です。しかしお互いのコミュニケーション不足から、業務量の調整について相互不信が生まれてしまったのでした。佐藤さんは「めちゃコマ」存続のためには人的な面でのマネジメント、特にメンタルケアの仕組みを構築する他ないと覚悟を決めたのでした。

困難に直面した時、佐藤さんは「できる限りシンプルに考える」「最も本質的に重要なことは何かを考える」の2点に焦点を絞るといいます。

その結果、講師募集案内を「めちゃコマ」サポーターに向けて出したところ、応募があり、「ひきこもりの人のためのめちゃコマだけど、めちゃコマを救ってくれるのもひきこもりの人だ」と実感したそうです。そして会社としての縦のつながり、当事者会としての横のつながりを交わることに注力した運営体制を作ることで「めちゃコマ」は会社存続の危機を乗り越えさらに発展したのです。「めちゃコマ」での経験を自信に繋げ次のステップに向けて卒業していく人もおり、また、新たに入社を希望する人も後を絶たない現状です。

佐藤さんは「働くこと」=「外に出ること」ではなく、「ひきこもりながら働こう」という新しい視点を提示し、注目されました。在宅ワークポータルサイト「hiki.work」を通じて多くの人が仕事に就くようになりました。https://hiki.work/

また、反対に「家から離れよう」という視点で、和歌山の梅農家である峯上農園とコラボしてプロジェクトを展開しています。「ひきこもりチョット脱出・田舎で自然体験!!」二年間で十数名を受け入れて数名の方はひきこもりから脱出したそうです。https://gifted-creative.com/mine-plantation/

現在日本の農業従事者の平均年齢は67歳、農業従事者が増えることは、社会貢献に繋がります。「めちゃコマ」では「農園プロジェクト」を推進していこうと考えているそうです。

しかし、「めちゃコマ」はまだ赤字状態で、親会社のバックアップがあって存続できている状態です。社会的意義が高く、その貢献活動が親会社の評判に繋がるので、広報としての役割は大きいことが理由でバックアップが可能だということです。しかし単体での黒字を目指すのが株式会社のあるべき姿。「ひきこもり者」採用に特化していると、マルチタスクやプレッシャーに弱いという弱点が克服できない、もっと様々なスタッフを採用して「ひきこもり者」が安心安全に働ける環境を作ることが解決策、そんなスタッフを募集中だそうです。

2019年2月15日から17日に、第一回「ひきこもりハッカソン」が和歌山県白浜町で開催されました。ハッカソン、とは、普段作らないものを、接しない人たちと一緒に作るという趣旨のもとに人々が集まり、競う、というイベントです。ひきこもり当事者だけで集まるのではなく、色々な人が集まることでネガティブ思考から離れて議論や作業が進められ、また、実際に参加した人々から「ひきこもり」に対する先入観が消え、その結果相互理解が深まり、「困りごとを解決する=ハックする」意識が共有でき、自己肯定感を高めることができたということです。

3年間の経験を通して、佐藤さんは「ひきこもり者」に対してポジティブな視点を持つことができるようになったといいます。そして「ひきこもりを悪と捉えるのはどうかと思うけれど、聖人君主みたいに言うのも違うと思うんですよね。もっとドロドロしていますから。」というひきこもり経験者の斉藤さんの言葉が、客観性を持って「ひきこもり者」に向き合い、「ひきこもったままでいい」と思える肝になっているそうです。

ひきこもりの垣根を取り払うことを人々に強く訴える「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」、とても読みごたえがある本でした。コロナ禍という「想定外」の事態に私たち皆が翻弄されている今、当事者の方々にもそうでない方々にもご一読をお勧めします。

2021.3.27(土)旧暦では2月15日。ソメイヨシノが満開に近づきました。近所の公園では桜のトンネルの下を老若男女がゆるりゆるりと歩いていました。我家のベランダのチューリップは散り初めとなりました。季節はどんどん進みますね。

ABOUT ME
たつこ
たつこ
今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねて今に至ります。心理し(士・師〜〜この二つの「し」の違いは何だろう?)です(臨床心理士・公認心理師)。喜びも多かった教員経験の中、一方で、えも言えぬ息苦しさも感じ、心理しの資格をとって、今は相談活動を行なっています。
関連記事