社会をまなぶ

シリーズ・パンデミック激動の世界(12)~〝医療先進国〟後編~医療逼迫

N H Kスペシャル「パンデミック激動の世界」日本の医療の問題〜まず、長年医師として救急医療に携わってきた、神奈川県医療危機対策本部室阿南統括官の視点から見ていきます。

日本の病床数はおよそ89万床。主要先進国の中でトップです。しかし新型コロナ感染者の病床として確保できているのは3万5000床あまり、わずか4%です。神奈川県でも4万6926床中1790床、4%。

病床の確保が進まないのは日本の医療の問題だと阿南さん。「できればコロナと無関係でいたい、協力なんかしたくない・・・という医療者が8割を占める中で病床数を増やして行くのは大変な戦いなんです。医療者が即全員必要性に応じて対応していくという甘い世界ではない。」

横浜市の大口東病院が取材に応じました。横浜市病院協会の会長を務めている新納さんは、12の診療科を設けている病院、規模としては中小、入院施設もある病院の医院長です。「新型コロナの患者の受け入れには踏み切れなかった。申し訳ないと思っているが、呼吸器の専門家もいない、機材もない。医療ができない病院は病院とは言えない。」これまで、集中的な投資を行い差別化を行なって大病院の向こうを張って生き残ってきた大口東病院は従来の医療を優先することを選択しました。また風評被害を恐れる気持ちも大きかったといいます。「コロナ患者を受け入れたら、コロナが移ると思って患者はこなくなる・・・。やれる病院でコロナ対策はやってもらって我々はバックを守っていく。新型コロナだけが病気ではない、地域医療を守る決断をした。」

看護師などの人手の問題も大きな障壁となっています。新型コロナ以外の疾患で多くの人が訪れるたま日吉台病院、看護師の数は患者10人に対し1人です。新型コロナ感染者を受け入れると患者に多くの看護師の手がかかるので対応できないのです。しかし今年1月3人の患者さんが新型コロナを発症、他病院から転院を断られ、自分たちで対応せざるをえなくなり、なんとか感染拡大を食い止めました。感染者3人に対し、看護婦6人を配置、救急外来や新規の入院患者受け入れを中止するなど、従来の医療を犠牲にして対応しましたが、2人が亡くなりました。

この1年国は新型コロナに対応する医療機関への財政援助を打ち出しましたが、それでも、病床の確保が進まない背景には、日本の医療の構造的な200床未満の病院がほとんどであるという問題点があります。60年前、国民皆保険を開始し、誰もが等しく医療を受けられるために、医師の開業は自由でした。そのため中小の病院が増加しました。高齢化とともに、病院は福祉的な役割も担うようになり、療養型の病床が増え、そのような病院では、感染症対応は想定されていない。

日本の病床一つあたりの医師の人数は0.2人と大変低いです。民間病院が多くて国や行政の力が弱く、要請はできても強制することはできない現在の状況では、コロナ対応の病床としては元々大国ではなかった、と元厚生省幹部。

「病床数の少ない中小の民間病院にとって新型コロナを受け入れるハードルは高かったが、民間病院も取り組んできたらより結果は良かったのでは、という指摘もあります。」という大越キャスターに対し、日本医師会中川会長は、「どんな新興感染症が襲来したとしても、その医療とそれ以外の通常の医療が両立していかなければならない。民間も地域で面として頑張っているとご理解していただきたい。」

4月中旬、全国的に変異ウィルスの患者の増えつつある中、神奈川県医療危機対策本部の阿南さん、重症者用の病床の確保に苦労していました。特にICUは本当に厳しくて、元々限られた病院でしかできない。全国で7000床しかありません。

そんな中、神奈川県内で新たにICUを開設しようと模索した川崎市の新百合ヶ丘総合病院が紹介されました。4月の運用を目指して1月にECMOなどの機械を導入しましたが、まだ稼働していません。医療機関や行政が参加する会議で合意が得られないのです。笹岡院長は「少しでも早く」ともどかしい思いを持っておられます。川崎市の担当者坂元さん、「地域医療構想に基づいて各地で行われている議論はこれまで『病床削減会議』であり、医療は経営だという観点には、感染症の全国的な蔓延は想定外で、大きな反省点であり今後は前向きに進めていきたい。」

医療先進国であるはずの日本の構造的な脆さ。一方海外でもそれぞれの医療の問題点があぶり出されています。

田村厚生労働大臣は、自由開業制についての大越さんの質問に対し「医療の設置者の人々に合意形成ができていないとバラバラになる、普段から話し合いをしておくべきだったと反省している。」

実は、コロナ禍で日本全体の医療費が減少しました。一人当たり、年間12・6回だった受診回数は減少しました。東京大学の五十嵐さんは「国民皆保険の中、これまでの受診は過剰だったのではないか」と分析します。膨張を続ける医療費が今回減少に転じた中、調査を行ったところ、3割程度の人が受信控えを行った結果、7割の人の健康状態は変わらなかったということがわかりました。

コロナ禍で変化した人々の受診行動で、地域の診療所にも変化が起きました。経営に打撃を受けた診療所も多くあります。多摩ファミリークリニックの大橋さんは、「患者さんに必要な診療について考え直すきっかけになった。」といいます。

一方で受信控えによって健康状態が悪化した負の側面もあります。がん研有明病院では、ステージ1の胃がんの手術が減りました。「病院へのアクセスが良いことは、スピードが必要な癌の治療にとって大きな意味がある、ステージ1の手術が減った結果は数年後にいろんな形で現れてくる。」と医院長の佐野さん。

「医療を守るために医療にかからない選択も必要だ」という五十嵐さん。「今回医療行動が変わった両面を分析していかなければならない」という田村大臣。

危機に備えた医療体制をどう構築して行くのか。神奈川県の阿南さんは、一部の病院にコロナ患者受け入れが集中する状態を変えたいと考えてきました。県内の病院にアンケートを実施し、必要な財政、人的な措置について実現へ向けて行こうとしています。

病床数131の民間病院仁厚病院、常勤医師7人。 新たに新型コロナの患者を受け入れることにしました。大きな壁で隔離し国の補助金を使って機材を設置し、県の特別手当を看護師に支給し、患者の容体によって治療や対応をマニュアル化し、人材不足に対応しました。呼吸器の専門医がいないが、県立病院の専門医と連携して相談体制を作り、31人の患者を治療したのです。前田理事長は、患者さんの送り先がないまま8時間経ったことにショックを受け、新型コロナ患者を断ることはできない、と考えた、といいます。「制限された医療が、本当に患者のためになるのか、地域貢献になるのか?」と発想を転換し、患者を受け入れることにしたそうです。「確かに、一時外来は減ったがすぐに持ち直した」ともいいます。

病床の確保に奔走してきた神奈川県の阿南さん。第5波へ向けて、地域の資源を掘り起こそう、病院同士の連携のために風穴を開けようとしています。大口東病院も、県の呼びかけに応じて動き出しました。後方支援病院として8床を確保したのです。つまり重症から抜け出した患者さんを受け入れることにしたのです。

医療への教訓、医師会会長「対策をあらかじめ作っておく。マスク防護服などの備蓄、病床の確保、人材の確保を行う計画を平時の時から考えておく。平時の医療で余力を持っておくこと。」国「感染症に合わせた医療体制の維持は難しい。緊急時の病院への要請をできる仕組みを作り、地域医療構想も見直す。」

欧米に比べて感染者が桁違いに少ないのに、病床の逼迫が危機的な状況となった日本の病院体制に対し、私たち自身も必要な医療について考え、選ぶ必要があります。

今回パンデミックの突きつけた課題を追求していく中で共通していたこと。「実は危機はパンデミック以前にも確かにあった、しかし私たちはその危機を見ないふりをしてきた。」と番組は締めくくられました。

 

自分自身を振り返っても危機管理ができているとはいえません。様々な危機に対してどれくらい自分が準備できているか大変心もとないです。

 

もうすぐオリンピックが始まります。ここまで準備してきた選手たちのことを考えると開催もやむなし、とも思いました。しかし、ウガンダ選手団のコロナ感染をめぐってのあれこれを見て、国の危機管理の杜撰さに呆れました。空港で感染リスクが判明しているのに何故バスに乗って大阪までの移動を認めた(あるいは急がせた)のでしょう?なぜ地元の保健所がこの事態に対応しなければならなかったのでしょう?理解できません。オリンピック村に選手団を留め置いて感染について調査するべきではなかったのでしょうか?Jリーグでも、この間海外から入国した選手や監督など関係者には二週間の隔離を行ってきました。選手たちにはストレスの大きい隔離ですが感染拡大防止のためにそのストレスを受け入れてくれているのです。

コロナ感染対策に従事する人々の血の滲むような様々な努力を損なうような対応、そして「責任はない。適正な対応だった。」と言いはる担当大臣。出来の悪い喜劇を見ているような気分になりました。一月後日本の状況はどうなっているのでしょう?

2021・6・28

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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