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露が光る〜伊勢物語 絵になる男の一代記3・図録より〜

今日2022年12月3日は旧暦では11(霜)月10日に当たるそうです。大阪の日の出時刻は6時48分。私が散歩のために家を出る5時半はまだ真っ暗。公園の芝生で体操が始まる6時もまだ真っ暗です。今日大阪は急に冷え込み、最低気温は6度ほど。

体操のために芝生に入った時、草の上にキラキラ光る露がとても美しかったです。光る露に気付いたのは体操を始めて以来初めてのことです。

光る露を見て思い出すのは、やはり伊勢物語「芥川」。男におぶわれた女が、草に光る露を見て「あれは何?」と聞いたというシーンです。高校で初めてこのシーンを読んだ時、想像の中ですっかりお姫様になりきってこのシーンをなんども思い浮かべたものです(小さい頃から、読んだお話や、自分で作ったお話の、登場人物になりきって想像を膨らませるのが大好きでした)。

先日「伊勢物語・絵になる男の一代記」を観にいき、俵屋宗達の「伊勢物語図色紙・第六段芥川」に魅入りました。そして、その後友人から図録を借りることができ、解説を読みました。

宗達とその工房で制作されたと思われる伊勢物語図色紙は現在五九枚が知られ、近世における伊勢物語絵の白眉といえるそうです。

「芥川」の色紙について、次のような解説がありました。「男の曲線を多用した指貫や狩衣の立体感のある表現に対して、女の袿(うちぎ)は肩から両肩にかけての描写など、直線的で折り紙のようで現実感がない。抽象的な直線と曲線の組み合わせで表現される薄くきゃしゃな身体は、後に取り返されてしまう儚い存在を象徴しているようだ。」そのように解説されると、確かに存在感のある、細やかな模様の施された、男の指貫狩衣に対して、おぶわれている女の袿はのっぺりと平板な印象ですが、一方それだけに、深く美しい紫色が、こちらに強い印象を残すシーンです。

解説は続きます。「二人を包み込む背景は、たらし込みによる金泥の地面や水面、土坡の朧気な様子と相まって、無限の空間を現出している。その中で二人は花びらのように軽く漂っているかに思える。耽美的とも言える静謐な二人だけの世界が展開する本色紙は、一連の色紙絵の中で、叙情性において他に並ぶものがないだろう。」

「たらし込み」の技術は俵屋宗達が生み出した技術なのだそうです。絵の具や墨が乾かないうちに別の絵の具や墨を垂らすことで絶妙な加減で混ざりにじみ、形が生まれるのです。長い水墨画・日本画の歴史の中でそれまで誰も気づかなかったことに気づき、技法として完成させていく壮絶な努力、創意工夫の過程が記されていた記事でした。宗達、まさに天才。

伊勢物語は早くから絵巻物になり、「以降、常に先行する図様を継承して描かれていく(図録・『絵になる男の展覧会』林茂郎より)」のでした。「伊勢物語絵は図様が定型化しやすい傾向にある」そうです。しかし、俵屋宗達とその工房による一連の「宗達色紙」は「伊勢物語絵の図様伝統に囚われることなく、他の物語絵からも融通無礙に形を借用して伊勢物語を描いた」のでした。慶長13(1608)年の嵯峨本「伊勢物語」の出版を契機に、伊勢物語絵は図様としての新鮮さを失った(それだけ嵯峨本が流布したということです)のですが「宗達の手によって息を吹き返したともいえる」と林さんは解説しておられます。

展覧会にあったどの絵も素晴らしい技術に裏打ちされた仕事です。その中でも、宗達色紙の魅力は群を抜いていました。すごい人ですね。

2022年12月3日(土)合わせて以下の文章もお読みいただけたら幸いです。

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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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