自分と向き合う技術

本)雲を紡ぐ 伊吹有喜

今日図書館で手に入った本「雲を紡ぐ」。いつ予約したのだったか、なぜ予約したのか、すっかり忘れていました。2020年1月初版。本の帯に「分かり合えない母と娘」「美しい盛岡の空のもと、それぞれの夢や希望を紡ごうとする人々」とあります。そうか、ちょうど「母と娘」の関係についてあれこれ考えていた時に、この本の紹介が目についたから予約したんだ、と思い出しました。本の帯の、『母・真紀「私の娘はオンナを武器にする」』が目に入ったんだ・・・。

借りて帰って一気に読みました。物語の中の人々が生き生きと立ち上がり、動きだしました。

そもそも、ややこしいのは「母と娘」の関係だけではなく、「父と息子」「父と娘」「母と息子」だってそれぞれ厄介な問題を孕んでいます。この小説はそれぞれの関係に目を配りつつ、主人公美緒ちゃんをめぐる人々の三世代に渡る親子関係の傷つきと修復が、「時を越えて生き残る布」ホームスパンを、紡ぎ・染め・織るかのように、描かれます。

関係の難しさは「親子」に限らず「夫婦」にだって「恋人」にだって「友達」にだって「仕事」にだってつきもので、それぞれのナイーブな心をもてあましている人が人と関係を持って生きていく時、お互いの考えを話し合うことはとても難しいものです。

この物語を読んでいて、まるで心理療法の「事例研究」を読んでいるような気持ちになりました。物語があまりに予定調和的に進んで行くように感じる方、そんなに簡単にことが運ぶはずがないと感じる方も多くおられると思います。でもこういうできことって実際にあるのだ、と私は思います。もっと沢山の心のひだひだがあって、もっと沢山の言葉の渦があって、その中から要所要所で浮かび上がってきた言葉をこの物語は掬い取っているように感じました。

周りと折り合うために薄笑いを浮かべるしか術のなかった美緒ちゃん、折り合えなくなってお腹が痛くなってしまった美緒ちゃん、が、汚糸を洗い、紡ぎ、染め、織る、という祖父母の仕事に向かっていくことは偶然ではなく必然のことなのだと感じます。好きな本に導かれて英語の道に進んだ母の真紀、不条理な役割分担や立ち位置の中で硬く自分を閉ざすしかない真紀、その心をやわらげるのは好きだった本の世界であり、好きだった夫だということも同様に感じます。その夫、家業から逃げてついた仕事でリストラに怯え、家から距離をおいている広志、彼の選んだ仕事はまさに父母の心を継ぐものであり、彼が自ら娘や妻に近づいていくことで理解不能のモンスターに見えていた彼女たちの素顔と触れ合うことができたことも同様。

私たちが生きていく中で、選択した道はどれも必然のものなのでしょうか。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911311

2021・10・13(水)夜。上弦の月が美しく輝いています。久しぶりに月と出会うことができました。

10・15(金)朝。素晴らしい朝日と出会いました。少し加筆しました。

 

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たつこ
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今でも手元にある「長くつ下のピッピ」「やかまし村のこどもたち」が読書体験の原点。「ギャ〜!」と叫ぶほかない失敗をたび重ねていまに至ります。

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